モデルケースと対応

医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。

交友関係がなく、孤立していたアメリカ人

患者プロフィール

26歳の女性。アメリカ国籍。
英語教師として働くために来日し、語学学校教員として勤務。日本語は簡単な日常会話が出来る程度。

ケース紹介

精神疾患の再発で入院

アメリカにいた頃に統合失調症を発症。症状は安定しており、社会生活には問題がなかったため、夢であった英語講師になるべく来日し、語学学校教員として働いていた。 あるとき、勤務先での無断欠席が続いたため、上司が本人宅を訪問したところ、自宅で混迷状態となり衰弱していた。精神科へ救急搬送。

外国籍の患者の入院手続き

症状が再発しているため入院が必要と診断された。入院には家族の同意が必要であるため、SWが駐大阪・神戸米国総領事館へ連絡を行った。アメリカにいる両親とメールで連絡を取り合い、入院に対する同意を得た。

判明した乏しい社会とのつながり

本人の生活は自宅と職場の往復であり、日本での交友関係は構築されていない。日常生活や仕事での困りごと等を相談する相手もいなかった。 退院時、アメリカへの帰国も提案したが本人は日本で働くことを希望。そのため、SWより外国語による相談窓口を紹介。日々の相談事や通訳等のサポートを受けられることや、交流イベント等を通して交友関係が広がることを伝えた。

社会とのつながり、職場とのつながりを支援

また、アメリカではバスケットボールをしていたとのことから、社会人バスケサークルを紹介し、言語以外でのコミュニケーションを図れるツールも案内した。職場の上司にも持病について説明を行い、今後の働き方について話し合いを行った。

対応の工夫と視点TICについて

・簡単な日常会話はできても、役所での手続きや、病気の症状説明など、少し難しい日本語となると話がスムーズに進まないことが多い
・相談できる場所や通訳を利用できるサポート先を紹介することで、日常の課題に沿った問題解決へとつながる
・言語的/非言語的コミュニケーションによって交友関係を広げることで、日々のストレスが緩和され、公的以外のサポートも受けることができる
・支援者が英語を話せない場合は、費用も含めて医療通訳を利用することができることを伝え、コミュニケーション方法を選択してもらう
・ビザや滞在資格、就労条件、生活状況を詳しくヒアリングしておく

患者の展望

職場での働き方を考慮してもらうことができるようになり、体調に合わせて無理なく仕事が続けられるようになる。休日は社会人バスケサークルに通い、趣味を通して交友関係が広がり、日本人の友人ができる。買い物などの日常生活でのサポートは友人を通して受けることができるようになる。役所や病院などの公的機関では、通訳を付けることで都度解決。交友関係の影響もあり、日本語が上達していき、自身でできることも増えていく。

想定されるワーストケース

困りごとがあっても相談相手がいないため、一人で抱え込んでしまったり、放置してしまったりすることで問題が悪化。仕事に行けなくなり、家で引きこもることが多くなる。精神的にも不安定で収入を確保することが出来なくなり、アメリカへの帰国をせざるを得なくなる。

患者が抱える傷つき

・統合失調症と診断されたことに伴うトラウマ
・重要な場面(公的機関など)で言葉が通じないことの恐怖
・精神疾患への社会的スティグマ、自己スティグマ

社会背景の理解

・外国人に対する社会の偏見や壁
・相談先やサポート先の情報提供の不十分さ
・公的機関における通訳サポートの不十分さ
・通訳サービスの利用は高額である

関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)

逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)

患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。

ACEsの種類

心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用

参考

ACE研究、ACEスコアとは何か|クリニックちえのわ(外部サイト)
『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』(PDF)

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支援者の方へ

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最終更新日:2020/06/16

支援機関

  • 公益財団法人京都府国際センター

    日本語学習支援や災害時外国人支援、外国人留学生などの生活・就職相談を実施している

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  • 京都市こころの健康増進センター

    こころの健康に関する電話相談、精神障害者の就労・復職準備デイケアなどの支援を行っている

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  • ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
  • ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
  • ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
  • ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています