モデルケースと対応

医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。

医療に不信感を抱く、障がい児をもつ母親

患者プロフィール

障がい児(幼児)を持つ40 代。

ケース紹介

独自の医療観を持つ両親

障がいを持つ子に対し、「体が弱いため、外に出すことは子どもにとって負担が大きい」と考えている。普段から外出をあまりせず、親子ともに他者との社会的交流が少ない。予防接種についても独自の考えのもとに、接種するかしないかを決めている。

医療機関以外に子どもの様子を確認できない

障がいを持つ子は定期的な受診が必要だが、「子どもの調子が悪い」との理由でキャンセルが多い。「病院に行くと病気がうつる」と来院になかなかつながらない。定期健診や赤ちゃん訪問を拒否しているため、医療機関以外に子どもの状態を確認できる場はない。

母親自身の精神状態が不安定

本人は障がいを持つ子どもに対する独自の考えがあるため、医療スタッフの助言を聞き入れない。子どもの調子が悪いときには、医療スタッフの責任を問う言動がある。受診時は、多弁になることが多く、日々の様子を詳細に話し、感情の起伏が激しい。

本人との信頼関係を構築できるよう、多職種のスタッフが話す機会を増やした。病院、児童相談所、区役所、保育園、児童館などが連携して、日々情報共有を行って、生存確認や今後の方向性について話をした。

対応の工夫と視点TICについて

・医療不信が明らかな患者に対しては、1人で対応せず、多職種でケアすることが望ましい
・子どもの安全の担保を医療者と両親の共通目標として信頼関係を構築する
・関係機関との連携を図り、子どもの安全と発育を見守る体制をつくる

患者の展望

多数のスタッフの関わりと情報共有により、医療機関外でも生存確認ができるようになる。本人が相談できる窓口も増える。

想定されるワーストケース

・親子で家に閉じこもり、他者との交流が乏しいために、子どもの発育に影響を及ぼす
・生存確認ができない状態が続き、消息が分からなくなる

患者が抱える傷つき

・子どもに障害があることによる本人の傷つき
・医療不信を持つ患者は、過去に医療によるトラウマを抱えていることがある
・医療者に怒涛のように話す背景に、普段の生活での孤立がある場合がある
・他者との交流を避ける背景には、過去に他者とのトラブルがあった場合がある
・原家族との関係性

社会背景の理解

・障がい児の育児は定型発達の子どもとは大きく異なる。親の生活や心理に与える影響は、社会的に十分に理解されていない
・概して、障がいのある子どもを持つ親の精神保健は、定型発達の子どもの親と比べて不健康だが、十分にケアされていない

関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)

逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)

患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。

ACEsの種類

心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用

参考

『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』(PDF)

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支援者の方へ

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最終更新日:2020/06/16

支援機関

  • 京都市こころの健康増進センター

    こころの健康に関する電話相談、精神障害者の就労・復職準備デイケアなどの支援を行っている

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  • 京都府家庭支援総合センター 総合(障害相談、ひきこもり相談)

    児童虐待、DV、障がい、ひきこもりなど「家庭を取り巻く、複雑・多様化するさまざまな相談」を1ヶ所で対応する京都府のセンター

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  • 京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)

    男女共同参画社会の実現に向けて、さまざまな取り組みを行うとともに、市民活動を支援するために京都市が開設した総合施設。相談事業を行っており、無料相談も受けられる

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  • 京都府男女共同参画センター(らら京都)

    京都府男女共同参画推進条例やKYOのあけぼのプランに基づき、男女共同参画社会づくりに向け各種取り組みを推進する拠点施設

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  • 子どもはぐくみ室(京都市各区役所・支所)

    妊娠期〜18 歳までの子どもと子育て家庭に関する総合相談窓口

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  • ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
  • ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
  • ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
  • ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています