KYOTO SCOPE

社会的困難女性を支援する人のための
ソーシャルワーク・プラットフォーム

モデルケースと対応

医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。

精神科受診を拒否する一人暮らしの女性

患者プロフィール

一人暮らしの42歳。

ケース紹介

来院時の様子から精神疾患の疑い

高血圧で通院中。外来でいつも緊張度が高く、こだわりが強い様子。受付より独語があるようだとの報告もあり、何らかの精神疾患か発達障害を疑っていた。

ある日、待合で喧嘩をしているような声が聞こえた。誰と喧嘩していたのかと聞くと「誰というわけではない、すみません」との返事。あまり立ち入って聞いて欲しくないという印象を受けた。精神科受診歴を聞くと、「ある」とは答えるものの、内容を聞こうとすると激昂した。精神科受診を勧めたところ、拒否。

適切なケアにつなぐために

時間をかけて信頼関係を構築し、本人の了承を得たうえで、京都市こころの健康増進センターに一緒に相談した。このとき、市の精神保健福祉課にも連絡し、体調確認として定期的に家庭訪問をしてもらうことになった。

その後も「入院だけは嫌だ」との理由で精神科を受診しようとしなかったため、入院施設のないクリニックを紹介した。クリニックのPSWに状況を説明し、診察などにも同席してもらい、本人の様子をみてもらうこととなった。

対応の工夫と視点TICについて

・本人が支援を求めていなくても、精神疾患を持つ患者は生きづらさを抱えていることがある
・精神科受診に拒否的な場合、まず信頼関係を構築することに集中し、本人が困りごとを表出するまで待つ
・精神科医師だけでなく、行政保健師、精神科のPSWなど、より多くの支援者とつなぐ

患者の展望

クリニック受診で治療が再開され、精神保健福祉手帳の取得や各種障害サービスの利用が叶い、本人の生活の助けになる。また、デイサービスや作業所など、日中生活の場が確保できると、生活にめりはりがつく。多くの支援者とつながることで、入院ではなく通院で地域生活を送るという本人の望みも叶う。

想定されるワーストケース

精神疾患の症状が悪化し、より困窮する。高血圧の治療に来院しなくなり、適切な医療を受けられなくなる。その結果、健康状態が大きく損なわれる。近隣トラブルから警察に通報され、措置入院になる。賃貸の住居から退去を迫られる。

患者が抱える傷つき

・過去に精神科に入院した際にトラウマ体験
・医療にまつわるトラウマ体験があるために、外来で症状が悪化している可能性
・生育歴で家族や支援者、受けたトラウマ
・近隣住民などからの精神疾患に関するスティグマ
・精神疾患の診断によるトラウマとスティグマ
・治療における自己スティグマ

社会背景の理解

・精神科疾患を抱えた人は、ときに人権迫害を受けていることがある
・措置入院がトラウマ体験になることも少なくない
・症状を抑えることと、本人の回復は別である。症状さえなくなれば、その人が健康になるというわけではない
・精神科通院への偏見はいまだ根強く、社会的スティグマを受ける
・精神保健福祉手帳などが交付されると、生活面での支援が受けやすい

関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)

逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)

患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。

ACEsの種類

心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用

参考

『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』(PDF)

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支援者の方へ

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最終更新日:2020/06/16

支援機関

  • 京都市こころの健康増進センター

    こころの健康に関する電話相談、精神障害者の就労・復職準備デイケアなどの支援を行っている

    詳しく見る
  • ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
  • ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
  • ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
  • ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています