モデルケースと対応

医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。

繰り返す性感染症をきっかけに判明した知的障害

患者プロフィール

一人暮らしの25歳女性。無職。

ケース紹介

性感染症の再発を繰り返す

腹痛にて受診。内科で異常がなく、婦人科で骨盤内の感染症(性感染症)を診断した。しかし、感染の経緯や治療の必要性についての理解が乏しく、再発を繰り返した。

社会的に孤立した状況

一人暮らしで、家族や親族とは疎遠。職場ではすぐに上司に嫌われるなどの理由で、仕事は長く続かないとのこと。現在は無職。

不眠や落ち込みなどもあったため、本人と相談して近医精神科に受診予約した。主治医と相談し、紹介状に発達や知能の状況についてもアセスメントしてもらいたい旨を記載してもらった。

知能検査の結果はボーダーライン 発達障害も

精神科受診にて、知能や発達についての検査を実施される。知能検査の結果、IQ値は70で、ボーダーライン。小学校の頃から授業についていけない自覚があったが、親は取り合ってくれず、本人が努力して高校まで卒業していた。また、発達障害も診断された。医師いわく、本人が何でもできるように見えてしまうため、これまでかなり辛い経験をしてきたのではないかとのことだった。

その後、精神科のPSWを窓口に、障害年金受給の可能性などを含め、障害福祉課に相談することになった。

対応の工夫と視点TICについて

・Safety sexへの行動変容ができないことを頭ごなしに教育するのではなく、本人が何をどう捉えて行動しているのか、本人に寄り添って耳を傾ける
・まずは本人との信頼関係を構築し、本人が抱えている困難に寄り添う。本人の困難を解決する一手段として、知的障害や発達障害の可能性が疑われた場合には、信頼関係を保ったまま支援につなげる。
・療育手帳はや精神福祉手帳は自治体によりルールが異なることがある。取得が本人の生活にとってメリットになるかどうかよく話し合う。

・リスクのある性行動の背景に、本人のACE(下記参照)や性暴力被害などのトラウマがあることもある。

患者の展望

・社会的支援を受けて、本人の特性を理解している職場で仕事が継続できる
・過去に受けたトラウマから回復していく方向で、精神科治療を継続できる

想定されるワーストケース

・知的障害や発達障害についてのケアが受けられないまま、妊娠し、虐待のリスクが生じる
・自己肯定感がさらに低くなり、抑うつ症状が増悪する

患者が抱える傷つき

・理解力が低いことに自身も周囲も気づかず、自己を肯定することができない(認知の歪み)
・家族や親族からの不適切な養育
・性に関するトラウマ(性暴力被害や性感染症など)
・パートナーとの依存的な関係を形成する背景

社会背景の理解

・知的障害(ボーダー層)については、学校や家族が気づかないと、支援につながりづらい。学校の勉強をクリアしても、社会に出た際に理解力の低さが浮きぼりになることも。周囲は「なぜできないんだ、分からないんだ」と責め立て、本人も自身を責めてしまうことにつながる
・療育手帳があると、就労を含め、社会的支援を受けやすい。また場合によっては障害年金を受給できる可能性もある

関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)

逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)

患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。

ACEsの種類

心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用

参考

ACE研究、ACEスコアとは何か|クリニックちえのわ(外部サイト)
『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』(PDF)

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支援者の方へ

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最終更新日:2020/07/22

支援機関

  • 京都市こころの健康増進センター

    こころの健康に関する電話相談、精神障害者の就労・復職準備デイケアなどの支援を行っている

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  • 京都府家庭支援総合センター 総合(障害相談、ひきこもり相談)

    児童虐待、DV、障がい、ひきこもりなど「家庭を取り巻く、複雑・多様化するさまざまな相談」を1ヶ所で対応する京都府のセンター

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  • ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
  • ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
  • ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
  • ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています