モデルケースと対応

医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。

自認する性のトイレに行けず膀胱炎に

患者プロフィール

飲食店勤務の38歳女性(MtF)。パートナーと同棲中。
※MtF:Male to Femaleの略。自認する性が女性。

ケース紹介

膀胱炎の背景にLGBT

泌尿器科にて膀胱炎と診断され、治療を行うが頻繁に再発を繰り返していた。完治することが難しく、悪化傾向もみられた。

発症要因に対する生活状況の聞き取りを行うと、排尿を我慢する場面が多いことが判明。LGBTであることが周囲に言えておらず、自認する性(女性)のトイレを使うことができないため我慢してしまうことが多いとのことだった。そのほか、保険証の提示や名前のアナウンスなどに周囲が戸惑う反応が辛く、体調不良になっても病院に行きづらいことがあるという。

本人の「問題」ではないという視点

SWの提案により、当院での名前のアナウンスの際には、本人の顔を見ながら名字で呼ぶことにした。トイレの標識はジェンダーフリーを採用することに。外出時、周囲の目が気になる場合は、ジェンダーフリーのトイレを利用しながら、なるべく排尿を我慢する必要がないように助言した。

カミングアウトしていないことからの孤立

また、LGBTの自助グループを紹介。本人自身がLGBTであることに対する後ろめたさを感じており、自助グループへの参加は消極的であったため、初回参加にはSWが同行した。

その後も外来で通院された際には、声をかけてアフターフォローを行う。

対応の工夫と視点TICについて

・当院は安心して通える場所であると思ってもらえるように院内環境を整える(アナウンスやトイレの標識など)
・日常生活での困りごと(自認する性のトイレを使うことができないこと)に対して、一緒に対策を考える選択肢があることを伝える。一緒に考えることで理解者であることを伝え、関係性を築く
・患者自身がLGBTについて理解を深め、後ろめたさをなくしていく必要がある。自助グループに参加することで、同じような境遇の仲間と出会い、自信をつけていく
・自助グループに参加することで、日常生活での困りごとに対する対処方法を学ぶ
・セクシャルを明確にするような表現はNG。例えば、「女性だから〇〇」「彼氏はいますか?」など
・支援者自身がLGBTを問題として捉える必要はなく、それによって生じている困難の支援ができるという視点を持つ

患者の展望

院内の環境や対応を配慮したことにより、当院への通院に対する嫌悪感はなくなり、治療はスムーズに進み、膀胱炎の症状が改善する。

自助グループに参加することで同じ境遇の仲間ができ、LGBTである自分自身への自信が少しずつ育まれる。家族や親交の深い相手には、自身がLGBTであることを伝えて理解を得ることができるようになり、仲間同士での情報交換やサポートにより、日常生活での困りごとにも少しずつ対応していけるようになる。

多くの社会的課題はあるが、目の前の問題に対して1人で抱え込むことがなくなり、前向きに捉えながら生活できる。

想定されるワーストケース

・パターンA:来院時や診察時の状況でLGBTであることに支援者が気付けず、通院へ行く苦痛が大きくなり、医療との関係が途絶える。症状は悪化し、生活状況や精神状態も不安定となる

・パターンB:LGBTであると気付いたにもかかわらず、院内での配慮をしなかったために病院との信頼関係が少しずつが築けない。通院へ行く苦痛が大きくなり、医療との関係が途絶えてしまう。自助グループへ自主的に参加することはなく、パートナーとともに、心身ともに追い込まれ、社会的な孤立が深まる

患者が抱える傷つき

・思春期のアイデンティティー確立の揺らぎによる傷つき
・相談相手がいない孤立感
・日常生活でのセクシャル問題(トイレなどの社会的環境、社会的制度、他者の発言など)
・LGBTに対する社会的スティグマ
・LGBTの存在が無視されている多々の社会的事象からの傷つき

社会背景の理解

・いまだ日本社会においては、LGBTに対する偏見が根強い
・LGBTを想定していない社会制度や社会環境
・性教育が扱う内容が狭く不十分である
・組織におけるLGBTの啓発活動や研修などが浸透していない

関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)

逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)

患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。

ACEsの種類

心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用

参考

ACE研究、ACEスコアとは何か|クリニックちえのわ(外部サイト)
『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』(PDF)

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最終更新日:2020/06/16

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  • 京都市こころの健康増進センター

    こころの健康に関する電話相談、精神障害者の就労・復職準備デイケアなどの支援を行っている

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  • MASH大阪

    ゲイ・バイセクシュアルなどのHIVに関する相談・支援事業を実施するコミュニティセンターdistaを運営する団体

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  • ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
  • ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
  • ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
  • ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています