社会的困難女性を支援する人のための
ソーシャルワーク・プラットフォーム
モデルケースと対応
医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。
新型コロナ外出自粛による生活環境や家族関係の悪化からうつに
患者プロフィール
37歳。本人も夫も働いている。10歳の息子がいる。
ケース紹介
家事、育児、仕事の著しい負担増
月経困難症で内服していた低用量ピルの継続目的で再診。
体調をたずねると、「眠れない。食事も取れていない」とのこと。新型コロナの影響で夫婦ともに在宅勤務になり、気が休まらないという。
コロナ禍で外出自粛し、子どもと外にでたり、ママ友と話したりできず、疲労や不安が積み重なる日々で、逆上して子どもに物を投げつけたことがあり、母親として失格だと感じている。家族全員が落ち着かず、いらいらしていることも増えた。先日、食事をしても味がしなくて、新型コロナに感染したかと不安になり、保健所に電話をしたこともあった。夫は週3日は出勤、週2在宅で仕事を続けている。自宅に夫がいるととても気をつかう。自分は在宅勤務が続いているが、何もする気がしなくて有給を使って休んでいる。食欲も湧かないようだった。
家族一人ひとりにケアが必要
家族一人ひとりが新型コロナによる社会状況の変化に不安を覚えていて、それぞれケアが必要であると伝えた。家族や仕事のことばかりでなく、自分のケアを第一に考えてもよいとも伝えた。
精神科の予約が困難でも、なとか支援とつなげる
味覚障害はうつの1症状とも考えられるので、精神科への受診を勧めた。自院の精神科に予約しようとしたところ、2ヶ月後まで予約が埋まっていた。だが、病状から早期の介入が必要であると判断し、精神科医師に直接話をしたところ、1週間後に診察予約を入れてもらえた。ご本人にはこの他、電話やSNSでの相談が可能な厚生労働省「新型コロナウイルス感染症関連SNS心の相談」や「こころのホットチャット」、働く人の「こころの耳メール相談」を紹介し、SWにも連絡。
対応の工夫と視点TICについて
・身体的な接触が制限されている社会状況下において、非対面のサポートでできることに最大限努めた
・電話診療では患者の表情が見えないので、口調や間合いに注意を払い、相手に寄り添える会話を心がけた
・機会があれば、子どもの全般的健康状態や夫の社会的環境(雇用や賃金など)も注意深くアセスメントする
・ジェンダーの視点から、課題を家庭内で抱えないように工夫する
患者の展望
・課題を家庭の中に抱え込まず、家族のメンバーそれぞれが、外に相談者を持てるように工夫した
・夫が労務士とつながったことで、収入が減った際の家計についてのやりくりについて見通しがたち、夫のストレスは落ち着いきはじめた
・本人が家族の問題を自分だけで抱えなくてもいいことを理解する
・WEBサイト「こころの耳」などを見て、心の健康を保つことの大切さを理解する
・子どもが暴れるのは子ども自身の不安の表出との気づきから、子どももスクールカウンセラーとつながり、徐々に家庭内での会話も増えてきた
想定されるワーストケース
・本人のうつが増悪し、希死念慮が生じる
・児童虐待が悪化する
・夫から妻や子どもに対するDVへの進展
患者が抱える傷つき
・新型コロナによる社会状況の変化以前からのパートナーシップ(夫と本人の関係)そのもの
・夫に怒鳴られたことの恐怖
・子どもの世話も家事も自分がしなければという思い込み
社会背景の理解
・新型コロナの影響で社会不安が大きい最中にある
関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)
逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)
患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。
ACEsの種類
心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用
参考
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支援機関
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京都市こころの健康増進センター
こころの健康に関する電話相談、精神障害者の就労・復職準備デイケアなどの支援を行っている
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子どもはぐくみ室(京都市各区役所・支所)
妊娠期〜18 歳までの子どもと子育て家庭に関する総合相談窓口
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京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)
男女共同参画社会の実現に向けて、さまざまな取り組みを行うとともに、市民活動を支援するために京都市が開設した総合施設。相談事業を行っており、無料相談も受けられる
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京都府男女共同参画センター(らら京都)
京都府男女共同参画推進条例やKYOのあけぼのプランに基づき、男女共同参画社会づくりに向け各種取り組みを推進する拠点施設
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ウィメンズカウンセリング京都
女性が抱える心理的困難に対して、ジェンダーの視点での支援を提供する、民間のカウンセリングルーム
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- ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
- ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
- ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
- ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています