モデルケースと対応

医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。

7人の子どもがいるシングルマザー妊婦

患者プロフィール

30代、7回出産歴、3回中絶歴あり。

複雑な家族構成

切迫早産で産婦人科に入院した。妊娠中に切迫早産を診断されたのは初めて。7人の子どものうち、5人と一緒に住んでいる。一緒に住んでいない子どもは、前々夫が育てているという。4人は前夫の子ども。末子と今回妊娠した子の父親は現在のパートナー(未婚)である。

ケース紹介

5人の子どもたちとの困窮した生活

入院中、子どもの面倒をみる大人がいない。また、上の子どもたちが、ときどき小児科に気管支喘息で入院しているが、自宅の衛生状態などがよくない様子と保健師から情報提供があった。経済的にも困窮しているが、出産を希望している。実際の子育ては年齢の高い子どもに任せており、そのために学校を欠席している。産むか産まないかはパートナーの判断に任せており、パートナーが望まなければ中絶をする、パートナーが望むので産むという。

状況の自覚を促しながら、地域との連携へ

以前より、児童相談所も周知しているケースであり、通院中より地域の保健師から医療機関に情報提供があった。今回の入院を機に医療機関としても児童相談所に通告を行った。ソーシャルワーカーとの面談では、現在の状況もこれからの生活も非常に楽観的に捉えており、生活課題の共通認識を持つことが難しい。

多方面から支援を受けることについては、快く受け入れる意向は確認できた。今後は地域の保健師と連携しながら、生活のサポートをすることに同意は得た。

対応の工夫と視点TICについて

・多産でこれまでの妊娠に合併症がない場合、「自分の妊娠経過には問題がないはず」と本人が信じていることがある。しかし、本人が徐々に年齢を重ねていることや多産自体の影響もあり、妊娠合併症の発症リスクは以前より高くなっている
・自分で自身の人生設計ができない状況にあることが多い。その背景はさまざまである
・支援の必要性の理解がなくとも、子どもの安全を守ることを優先的に考え、サポートできることを積極的に提案する

患者の展望

より多くの大人が子育てに関わることにより、母親の負担が軽減され、子どもの発達状態も改善する。

想定されるワーストケース

残された子供を施設に一時入所させたことにより、母親に養育の意識が薄れ、退院時には現在のパートナーとの子どものみ引き取ることを希望する。

患者が抱える傷つき

・母本人に幼少期の被虐待経験がある場合も
・前夫などとの離縁に伴うトラウマ(DVなども考慮)
・両親などから子育ての援助が得られない関係性
・計画妊娠しないことを医療者に咎められるトラウマ
・妊娠することでしかパートナーとの愛着を得られないという思い込み

社会背景の理解

・子どもの安定した生活、安全、健康よりも、夫やパートナーとの愛着を優先してしまう精神的な不安定さ

関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)

逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)

患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。

ACEsの種類

心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用

参考

『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』(PDF)

このケースに関連するキーワード

支援者の方へ

ソーシャルワークにはさまざまな視点があり、モデルケースは常に多様な知見を取り入れながら改善しています。支援者の皆さまからのご意見を広く受け付けています。ご意見についてはこちらからお送りください。

また、定期的にソーシャルワークやトラウマ・インフォームド・ケアをテーマにしたオンライン勉強会を行っています。参加希望の方はお問い合わせフォームよりご連絡ください。(※現支援者に限ります)

最終更新日:2020/07/01

支援機関

  • 子どもはぐくみ室(京都市各区役所・支所)

    妊娠期〜18 歳までの子どもと子育て家庭に関する総合相談窓口

    詳しく見る
  • 京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)

    男女共同参画社会の実現に向けて、さまざまな取り組みを行うとともに、市民活動を支援するために京都市が開設した総合施設。相談事業を行っており、無料相談も受けられる

    詳しく見る
  • 京都府男女共同参画センター(らら京都)

    京都府男女共同参画推進条例やKYOのあけぼのプランに基づき、男女共同参画社会づくりに向け各種取り組みを推進する拠点施設

    詳しく見る
  • ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
  • ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
  • ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
  • ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています