KYOTO SCOPE

社会的困難女性を支援する人のための
ソーシャルワーク・プラットフォーム

コラム

連載:支援の現場から

京都YWCA 多言語電話相談(APT)

【APT】どんな時も尊重すべきは相談者の意思。日本に暮らす外国人やその家族に寄り添い、ともにアクションを起こしていく心強いパートナー。

2024.02.16

連載:支援の現場から

社会的困難女性(※)が抱える課題に医療現場で気づいたとき、他機関と連携して解決に向かうために。この連載では、支援機関の概要とそこで働く人たちの思いを紹介することで、多職種連携のハードルを下げ、しなやかなつながりを目指します。
※支援の手が届きづらい社会的に孤立している女性たちのこと(詳しくはこちら

京都YWCA 多言語電話相談(APT)(以下、APT)は、「電話相談」との冠を持ちつつも、その支援内容は相談業務にとどまらず外国にルーツを持つ人たちの生活、人権、コミュニケーションの課題にまで幅広く対応し、課題解決に向けてともに行動しています。今回は、学生時代からAPTの一員として活動中の張善花さんにお話をお伺いしました。

今回お話をうかがった人張善花(チャン・ソンファ)さん

APT相談員。韓国出身。京都大学大学院教育学研究科(臨床教育学専攻心理臨床学)に在学中、京都YWCA・APTの活動に関心を持ちボランティアで参画。6~7年の間にあらゆるケースを経験。その後、一旦韓国に帰国し心理療法士としての勤務を経て、再び京都YWCAへ戻りAPTの担当職員として奔走し続けている。 詳細はこちら→https://kyoto-scope.com/457.html

相談にとどまらず同行支援まで手がける

――どのような相談が多いですか?

日本に暮らす外国人、ご家族に外国人がいる日本人を対象に、就労、福祉制度、法律、在留資格、そして離婚、子どもの教育のことなど幅広い課題に対応しています。なかでも多いのがDVの相談です。相談は本人から電話やメール、Facebookメッセージなどでご連絡をいただくこともありますが、京都府の「家庭総合支援センター」や京都市の「DV相談支援センター」など、連携している行政の相談窓口から連絡をいただくこともあります。

――相談を受けてからの支援フローを教えてください

DVの相談であれば、相談者が今後どのように生きていきたいのか、どういった形で課題を解決したいのかをヒアリングして、次のアクションを考えていきます。DV被害にあわれた方たちは精神的にも身体的にも傷つき、人を信用できない心理状態になっていますし、特に外国人の場合は言葉の壁や文化の違いもあるので、シェルターなど連携先との関係づくりにおいても丁寧なケアが必要です。また、APTの特徴は同行支援まで行うことなんです。電話での相談や情報提供にとどまらず、次に相談者が起こすアクションに寄り添い、関係性をつくって、課題解決に向けてともに奔走します。

自分で決めて前進できるためのサポートを

――同行支援というのは、具体的にどのようなことを行うのでしょうか?

DVを例に挙げると、行政のDVセンター、警察、病院などあらゆるところに一緒に行き通訳や手続き業務をサポートします。また、シェルターへの入所手配や裁判所への同行、子どもと父親との面談なども行います。DV被害にあわれた方はほとんどの場合、子どもを抱えておられます。ですから、その親子が日本でどのように自立して暮らしていけるのかを模索して、いい形で着地できるお手伝いをしています。しかし、支援員と相談者との関係が親密になればなるほど、相談者が依存してしまいあらゆる判断を支援員に委ねてしまう傾向があります。それは本人のためにもなりませんので、相談者自身が自分で道を切り開いていけるようにサポートする姿勢を貫くようにしています。

――他機関との連携について教えてください

DV被害の場合は、まず「DV相談支援センター」と連携しますし、地域団体と協議会をつくって意見交換も行っているので、特にここ10年くらいで行政機関との連携がスムーズになってきたように思います。また、必要に応じて弁護士や行政書士などからアドバイスを得ながら支援を手がけています。全国的にみてもAPTのように同行支援まで行う団体は少なく、他県から相談をいただくこともあります。

――これまで支援を手がけてきて印象に残っていることはありますか?

一人ひとりの背景が異なるので、似たようなケースであっても、ただ制度の説明をすればいいというわけではなく、常に個々にあった対応が求められます。それは、国や文化が異なるからというよりは人としての違いからくることですから、当然のことではあります。例えば、日本のDV被害者への対応マニュアルでは、被害者の身の安全のために、原則として被害者がどこか別の場所に避難することになります。加害者の生活は何も変わらないけれど、被害者はそれまで築いてきた生活基盤をすべて失い、また一から築いていかなくてはなりません。そのことに対して、「なぜ、被害者の私が逃げなくてはいけないの?」という声を国籍を問わずよく聞きます。実際にヨーロッパでは、加害者が逮捕されて被害者はそのまま同じ場所で暮らしていけるケースが多いんですね。あらゆる背景の人たちと向き合うなかで、制度に馴染んでいる日本人よりも別の視点を持っている外国人の方が現状の制度への違和感に気づきやすいと感じることがあります。外国人、日本人ということにとらわれず、当事者の声が活きた制度や支援体制が整っていけばいいなと思います。

一方的に助けるのではなく、ともに行動するパートナー

――張さんが支援を行うにあたり心がけていることを教えてください

相談者に対して「help」という言葉を使わないようにしています。私たちの姿勢はどんな時も「work together、walk together 」であって、私たちが「相談者を助ける」という姿勢ではありません。「相談者が解決したい問題に対してともに働き、ともに歩む」というスタンスなんです。特にDV被害者の方は心身ともに衰弱していて判断力や自信を失っていることが多く、私たちAPTが立場的に優位に感じて萎縮してしまい、より支援員に依存してしまう場合があります。しかし、尊重すべきは相談者の意思ですから、とことん話を聞いて、例えどんな判断を下したとしても、彼女たちが決めたことに付き合い、ともに行動して歩んでいくのが私たちのだと思っています。

――張さんにとって、「寄り添う」とは?

人間はどんな時も誰かとともに歩んでいくものだと思うんです。外国人だから、日本人だからということは関係なくて、一人の人間として、もし今、隣に困っている人がいるのなら声をかけて、お互いが持っているものを交換しながら一緒に歩いて行きたいと思うんです。一人で生きるのではなくて、誰かの隣にいてともに生きていくこと。それが私にとって「work together, walk together」であり「寄り添う」ということなのかもしれません。

お話をうかがって

張さんのお話を伺い、困難を抱える人たちへの支援制度そのものを、当事者の視点を持って見つめ直す必要性を改めて感じました。そして、支援に適したサービスや体制を構築していくためには、あらゆるバックグラウンドを持つ人たちと向き合い、数々のケースを経験してきた張さんならではの視点が活きてくるのではないと思います。なお、医療機関などで言葉の壁があって患者さんとのコミュニケーションが難しい場合はぜひAPTを思い出してください。言葉の壁の向こうにある本質的な問題を発掘し、ともに解決への道を探ってくれると思います。

聞き手:池田裕美枝(医師/KYOTO SCOPE)
執 筆:山森彩(ユブネ)
編 集:高木大吾(デザインスタジオパステル/KYOTO SCOPE)