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コラム

連載:支援の現場から

京都わかくさねっと

【京都わかくさねっと】女の子たちが抱えている生きづらさを本音で話し、自分らしくあることを応援する地域の「居場所」

2023.09.24

連載:支援の現場から

社会的困難女性(※)が抱える課題に医療現場で気づいたとき、他機関と連携して解決に向かうために。この連載では、支援機関の概要とそこで働く人たちの思いを紹介することで、多職種連携のハードルを下げ、しなやかなつながりを目指します。
※支援の手が届きづらい社会的に孤立している女性たちのこと(詳しくはこちら

「京都わかくさねっと」は2016年7月より更生保護女性連盟が主体となって社会のなかで生きづらさを抱える少女たちを支援するために、「若草プロジェクトin KYOTO」事業として活動を始めました。そもそもは、作家の瀬戸内寂聴さん、元厚生労働事務次官・村木厚子さん、日本更生保護女性連盟会長・千葉景子さんらが起ち上げた全国ネットワーク「若草プロジェクト」に共感し、同様の社会課題を京都でも支援したいという気持ちでスタートしました。事務局長を務める北川美里さんにお話を伺いました。

今回お話をうかがった人北川美里さん

京都市在住。大手広告代理店勤務をへて保護司に。左京区の保護司会に所属。京都府更生保護女性連盟のメンバーで「京都わかくさねっと」を設立し、2018年に法人化。

少女たちが本音を話せる「居場所」を地域につくる

――どのような相談が多いですか?

生きづらさの種類がいろいろで、孤立によって引きこもったりとか、自傷したりとかさまざまな問題が起こります。依存や精神の問題も、その根っこは一緒なんです。私たちは少女たちを「孤立」させないために自分の家のように思える「わかくさカフェ」という居場所をつくって、相談ごとを何でも聞く場所として開いています。少女たちは本音を話せる場所がありません。ですから、まず信頼関係を築いて本音で話せる場所を地域のなかにつくり、支援者とつなぐ場所が必要だということで「わかくさカフェ」はホステルや青少年活動センター等の一角にオープンしています。

スタッフは主に地域の女性や、大学生のボランティアさんです。ここに来れば、飲み物や軽食を無料で利用できて、小物づくりやカードゲームなどに気軽に参加できるコーナーがあり、「Hostel NINIROOM」さんと連携した「わかくさカフェ」では毎日10時~18時は「おひるね」として1部屋を空けていますから、1人になりたいとき、疲れきったときには部屋を利用して休むこともできます。

――更生保護女性連盟が主体となった活動から発展した活動ですが、どのような支援をされているのですか?

私は保護司をしているので、もともとは、犯罪歴や非行歴があったとしても、幸せになってもらいたい、そこを支援しなければ社会の全員が幸せになれないという想いが発端にありました。彼女たちは加害者である一方、さまざまな社会的要因においては被害者でもあり、本当に社会的に弱い存在であると痛感したんです。しかも、母になる存在でもあります。母親が幸せになれなければ、弱者である存在が子どもにも連鎖していくのではないかと考えるうちに、少女たち全員を地域で守る仕組みが必要だと気付かされました。

以前に覚醒剤に手を出して再犯した女の子から、「私のことをこんなにわかってくれるのは、北川さんと薬物の売人の彼氏だけだ」と言われたことがあります。こんなにたくさんの人間がいるのに、彼女のことを本当に考えてくれる人間が誰もいなかったことに衝撃を受けました。それは絶対社会のせいでしょう。

安心して過ごせる時間、本音を語れる時間が希望につながる

――「居場所」に来られた方から相談を受けた後は、どのようなフローで対応しますか。

私たちの居場所は、基本は話を聞ける環境をつくるだけで、相談や支援を主とはしていません。しかし、そこでのやりとりのなかで悩みや困りごとを話すことがあります。そのときは、支援のネットワークに繋ぎます。例えばDVを受けたという相談があればDVセンター、シェルター、警察、もちろん病院にも一緒に行きます。精神的なケアができる機関におつなぎすることもあります。京都市の子育て支援課や家庭支援課などに連絡したり、学校や施設の会議に参加することもあります。最近では、青少年活動センターと連携し、お互いの居場所を行き来する少女も増えてきました。各種支援団体につなぐ前段階で相談できるように、心身ともに安心できる場所を提供すること、彼女たちが泊まれる場所があることが大事なんです。親から暴力を受けたときに逃げ込める場所があって、怒りや恐怖から逃れて落ち着けることが第一です。行政機関や知り合いの家などに駆け込むこともできますが、ゆっくりと自分ひとりで安心して考えることができる時間を持つことが、次の行動に向けて何より大事になります。

――スタッフの皆さんはどのような方たちですか?

地域の中高年の女性が多いです。話を聞く側の大人は、例えば保護司とか民生委員といった専門職じゃない人たちがほとんどです。彼女たちにここに来た理由などを根掘り葉掘り聞かないし、「お腹空がいたらご飯食べ」という向き合い方で、信頼関係を築いてくれています。

最近は、大学生などの若者もスタッフになりたい、何らかの役に立ちたいと言ってくれる人も増えています。自分が中高生のときにしんどかったときにこういう場所がなかった。だからその中高生でつらい思いしている方たちに対して、何かしてあげたいっていう思いが強いです。困っている人を支援しながら、自分自身も見つめることで自己肯定感が芽生えてくるように良い循環をつくっていかなければと取り組んでいます。

――これまで支援されたなかで印象に残っているケースはありますか?

私がちょっと驚いたのは、自分のやりたいことをやっていいっていう経験がない子が多いんです。仕事でも自分なりにやりたいことやったらいいよと言っても、仕事っていうのは、まずは辛いことを耐えるものという気持ちがあります。よく考えたら幼少の頃から我慢ばかりしてきたり、褒められた経験がなかったりすると仕事が自己実現にならないんです。そんな女の子の1人が「私、●●になりたい」言ったのが一番嬉しかったですね。

立場や年齢は関係なく対等に話しあえる社会こそ包摂

――北川さんやスタッフの皆さんが支援する際に心掛けていることを教えてください。

この人なら喋ろうかなというのって、大切だと思います。何か回答を得られる人生経験がある人じゃなくて、人間関係のなかでこの人やったら今度ちょっと話してもいいのかなあという。この環境を大切にしています。支援するっていう感覚はあまりないのかもしれません。地域の年輩の女性たちと一緒に活動していると、ここに来る女の子と関われば関わるほど、学ぶことがいっぱいあって面白くて楽しくて、どんどん支援するという感覚がなくなって、なんていうか、私たちが考えている包摂社会とはそういうことなんだろうなと思います。立場や年齢は関係なく対等に話しあえるほうがきっといい社会になるんじゃないかな。絶対面白いです、その方が。

――最後に、北川さんにとっての「寄り添う」とは何でしょうか?

彼女たちに対してかわいそうとかそういうことは思わなくて、同じ方向を見ながら一緒に歩くみたいな。私はその子と話しながら、一緒に考えて、それは嫌やなあ、これはしんどいよなとか話すことが結局は寄り添うっていうことになってるのかな。それと、一度来た子が来なくなってもそんなに強く追いかけません。居場所ってそういうものじゃないから。主体的に関わるものですよね。本人がここを居場所だと思わないと続かないし、すべてがそうですね。大人が一方的に見立てるということはしないです。

お話をうかがって

どこかに心から安心できる場所や人のつながりを持つことが、困窮したときに八方塞がりになることを防いでくれます。京都わかくさねっとのWEBサイトにはこう書かれています。「誰かへの思いやりは、その先の誰かの心を温めます。やさしさ・愛は、人から人へと廻るものです。ひとりひとりの小さな行動から始まり、やさしさが伝播する、それが私たち京都わかくさねっとらしいあり方であると感じています。」支援団体である前に、同じまちで暮らす隣人である、というあり方がうかがえる一文です。少女たちの心をまず安心させてあげたい、そんなときには北川さんを訪ねてみてください。

京都わかくさねっと

聞き手:池田裕美枝(医師/KYOTO SCOPE)
執 筆:山森彩(ユブネ)
編 集:高木大吾(デザインスタジオパステル/KYOTO SCOPE)