コラム

連載:支援の現場から

京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)

【ウィングス京都】職場や家庭で“生きづらさ”を抱えている人たちのあらゆる悩みに対応。相談者が自分らしく歩める道をともに探る。

2023.04.08

連載:支援の現場から

社会的困難女性(※)が抱える課題に医療現場で気づいたとき、他機関と連携して解決に向かうために。この連載では、支援機関の概要とそこで働く人たちの思いを紹介することで、多職種連携のハードルを下げ、しなやかなつながりを目指します。
※支援の手が届きづらい社会的に孤立している女性たちのこと(詳しくはこちら

病気や暴力、過去の経験によるトラウマ。目には見えなくても人はそれぞれ悩みを抱えていたり、被害にあっていても自覚していないこともあります。ウィングス京都は、ジェンダーに関する困りごとを中心に、DV、病気、子育て、パートナーとの問題など、様々な生きづらさを抱える人たちと向き合い、自分らしく生きるためのサポートをする組織です。相談窓口では、年間およそ2,000件のケースに対応し、相談者の社会での居場所づくりなど課題解決に向けて伴走しています。今回は、管理職であり現場最前線で相談業務にもあたっている事務局次長の今井まゆりさんにお話を伺いました。

今回お話をうかがった人今井まゆりさん

公益財団法人京都市男女共同参画推進協会事務局次長(2022年3月現在)。事業企画や相談業務に長年携わる。2011年より管理職として事業企画業務、相談業務を統括。アンコンシャス・バイアスの解消や、DVや性暴力等あらゆる暴力の根絶のための啓発や講座を実施する。

はじめの一歩は状況整理から。生き方、暴力……あらゆる悩みに対応

―― 相談対応の手順を教えてください

ほとんどの場合は、Webサイトやパンフレットを見た相談者本人が、直接電話をかけてこられます。電話相談は相談者の匿名性を守るため、例えリピーターであっても毎回「はじめまして」ではじまります。しかし、様々な悩みを持っておられるケースが多いのでたいてい1回では解決しません。電話での相談だけでは課題解決に向かわないと判断した場合は、インテーク面接(注2)を行い、その相談者の方に今後どのような支援が必要なのか見立てをします。そして、ご本人に合意を取り、次の面接に繋げていくというのがおおよそのパターンです。また、面接に来られてもご自身の相談内容を整理できていない人が多いので、まずは一緒に状況を整理していくことから始めます。

注2:相談者がどのような問題を抱えているのかを明確にして、以降の支援方針を立てるための最初の面接。

―― どのような人たちが相談にやってきますか?

ジェンダー問題に軸を据えていますが、相談内容を特化していないため、病気、性暴力、DV被害者など、実に様々な「生きづらさ」を抱えた人たちが相談に来ます。中でも、全体のおよそ4割がパートナーや夫婦に関する問題で、さらに細分化するとDV、離婚、モラハラなどがあります。また、実際に当事者からお聞きした相談内容からニーズを拾い上げて、その後の自走をサポートするための講座やイベントなども企画しています。相談も講座も、京都市民だけではなく全国どこからでもお越しいただけます。

相談者とウィングス京都が「つながる意味」を理解してスムーズな連携を

―― 他機関から紹介をする場合に必要な情報を教えてください

年齢・家族構成・職業は大前提として、受診歴や既往歴。そして一番重要なのは、ウィングス京都に相談者の方をご紹介された背景を私たちが把握することです。相談者を支えていくためにも医療機関との連携を図っていきたいと思っていますが、医療機関から正式な手順を踏んで連携がなされるケースはまだほとんどありません。医療従事者が診察時にウィングス京都のことを紹介して、相談者が自分で連絡をしてこられます。しかし、相談者がウィングス京都へ来こなければならない理由を理解されていない、あるいはうまく説明することがきないまま来所されることが多々あります。相談者の医療的な背景がわからないため、治療の進行状況が不明瞭なので私たちが心理面だけをサポートしていくことには不安を感じずにはいられません。ただ、医師の方も紹介状の発行など正式な書類の発行となるとハードルが上がるとのことなので、その場合は「こういう理由でウィングス京都を紹介しました」という内容をメールでご一報いただくだけでも支援しやすくなります。

ジェンダーの問題を“誰か”ではなく、“私たち”の問題に変えていきたい

―― 今井さんが、この仕事を続ける理由はなんでしょうか?

相談者の方と面接を重ねるうちに、その人が自分らしく生きられるようになって地域へ戻っていく姿を見ると、この仕事をしていてよかったと思います。ジェンダーの問題に関しては「私は差別なんてしない」「自分がDVの加害者になるはずがない」など、自分には関係のない、誰かの問題だと思っている人がまだ多いと感じています。人ごとだと捉えている人たちにも、ジェンダー問題を社会課題をとして意識してもらうための取り組みとして、女性と暴力の問題を考え続けるためのネット企画「パープルカフェ」や「ホワイトリボンキャンペーン・ジャパン」とのコラボレーション企画などにも積極的に取り組んでいます。

歩み寄りながらも客観性を持って。相談者が生きやすくなるためのお手伝いを

―― 今井さんが相談業務をするなかで日頃から心がけていることはどんなことですか?

対人援助において最も心がけていることは、状況把握を綿密に行うことと、自分の価値観やジェンダー観の傾向を知っておくこと。私たちのミッションは、個人が抱えている悩みと向き合い、その人が前向きに生きる方法を探ることです。今、その人がどんな状況にいてどのような支援を必要とされているのか見立てを間違えると、相談者をよくない方に導いてしまいかねません。ウィングス京都の相談室には、私たちが想像を絶するような経験をされてきた方がたくさんいらっしゃいます。だから、相談員が自分の経験に基づく価値観で目の前にいる相談者と向き合ってしまうと、その人の生き方や考えを否定をしてしまって、相談者が抱えている課題を引き出せず内在化してしまいかねません。ですから、常に「私はあなたが経験してきたことを知らないので教えてください」という姿勢で向き合うように心がけています。また、壮絶な経験からトラウマを抱えてこられる相談者の方も多く、相談業務にあたる中で罵声を浴びせられたりして、相談員のメンタルが傷つくこともあります。支援する側・される側双方にトラウマインフォームドケア(注3)の重要性を実感しています。

注3:トラウマを抱えている(もしくは抱えていると思われる)人に対して、トラウマの影響を理解して配慮ある関わりをすること。(詳しくはこちら

―― 相談業務には「寄り添う」姿勢が欠かせないと思います。今井さんにとっての「寄り添う」とは?

私にとって、寄り添うとは、その人の横に座らせてもらう、あるいは歩み寄るという言葉が近いような気がします。相談をする・される関係は、こちらがそうならないように意識をしていてもどうしても上下の関係になってしまいがちです。私たちの最大のミッションはその人が生きやすくなるための道すじをつけること。その人が本来持っているはずの力を回復して、その人らしい生活を送ってもらうことが最終目標です。相談者の周りにも、友人や親戚など話を聞いてくれる人はいると思います。けれど、課題解決に向けてもう一歩前に進むためには、ただ共感をするだけではなくて、相談者が抱えている問題を客観的に把握して、その原因を取り除いていくことが必要です。例えば、数年間ウィングス京都に相談に通われていたAさんという方は、ご自身の抱えているトラウマから人を信頼することがなかなかできずにいました。けれど、Aさんから話を聞く中で相談員が彼女の発達障害に気づき、今度は障害者の支援組織とつながって、現在は複数の組織が連携をして彼女を見守っています。そして誰も信じることができずにいたAさんが、今では「私には信頼できる人がいるんだ」と言ってくれるようになったんです。相談者も気づいていなかった生きづらさを、丁寧な状況把握と課題整理によって他機関でフォローする。歩み寄りながらも客観的な視点を持って伴走し続けてきたからこそ得られた結果だと思います。

お話をうかがって

今井さんは、とても熱心にあらゆる相談と向き合ってこられ、相談者の課題解決のために奔走してこられたのだろうと感じました。今井さんに、心に残ったエピソードをお聞きすると最後にご紹介された「他機関との連携ができた事例」だと教えてくれました。しかし、他機関との連携プレーは今はまだほとんど事例がないそうです。医療機関からの紹介方法は、患者にパンフレットを手渡すこと、患者さんに情報を伝えて電話をしてもらうことでしょうか。複雑なケースの場合は、メールや電話でウィングス京都へ補足情報をお伝えしましょう。また、自走するためのフォロー企画として「DV被害者自立支援講座」なども開催されていますのでぜひチェックしてみてください。

京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)
DV被害者自立支援講座については詳しくはこちら

聞き手:池田裕美枝(医師/KYOTO SCOPE)
執 筆:山森彩(ユブネ)
編 集:高木大吾(デザインスタジオパステル/KYOTO SCOPE)