KYOTO SCOPE

社会的困難女性を支援する人のための
ソーシャルワーク・プラットフォーム

モデルケースと対応

医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。

中絶不可週数を迎えた16歳

患者プロフィール

16歳で妊娠した高校生。

ケース紹介

誰にも相談できないまま中絶不可週に

16歳で妊娠。相手は高校の同級生で未成年。 誰にも相談できずに受診が遅れたため、初診時には法的に中絶が可能な週数(21週6日まで)を超えていた。 本人は、家出をしてでも子どもを養育したいと思っていた。 母に離婚歴のある母子家庭で、母は精神疾患があり通院中であった。 当初本人は母に相談することを強く拒否していた。

母親との話し合いを支援

京都市の子どもはぐくみ室に相談し、母親との話し合いを支援してもらった。 母は養育に反対しており、また母の精神状態にも不安があったため、母子寮への入寮も検討した。 しかし最終的に母が療育に賛成し、また母の姉や祖父母の支援が得られることになり経済的基盤についても目処がたったため自己にて療育することになった。

養育環境と教育環境を整える

病院の助産師と連携し、妊婦健診時や出産前後の教育に配慮した。 妊娠中、webサイトティーンズママルームhttps://teens-mama.comを紹介し、妊娠中の不安が少しでも和らぐよう配慮した。産後は子どもはぐくみ室と連携し、乳児健診・予防接種受診の通院をフォローした。 病院スタッフを通じて復学について学校側とも話し合ったが、相手も同じ高校に在学しているために同じ高校に通いたくないという本人の意思があった。産後は、子どもはぐくみ室からの紹介で産後ヘルパーを利用したり、母親の精神保健をサポートするヘルパーを利用したりしながら、本人の子育てを見守った。産後5ヶ月経った頃、親族からの経済的支援がうけられなくなった。生活保護申請をするなかで、本人に学習継続の意志が生じ、母子生活支援施設野菊荘に併設されている「ひとり親サポートセンターこもれび」を利用した。子育てをしながら学習サポートも受けることができ、高校卒業認定試験を受ける方針になった。今後も、はぐくみ室保健師や、こもれび職員、病院スタッフなど、複数の大人と関係を継続できそうである。

対応の工夫と視点TICについて

・本人の意思を尊重し意思決定を支援する姿勢を示した
・本人の意思決定を支援するため、各選択を行なった場合の、可能性のある問題点と解決方法について情報提供をした
・妊娠中絶に関する意思決定にはタイムリミットがあり可能な限り早期の対応が必要である。通常の妊娠中絶が可能であるのは12週未満であり、それ以降21週6日までは「中期中絶」となり、対応できる施設が限定される
・妊娠中絶を実施する場合、費用は保険適応外となり、未成年や経済的困難がある事例では支援を要する
・各医療機関独自の規定により同意書への署名(配偶者、パートナー、未成年の場合保護者など)が求められるため、妊娠経緯によっては支援を要することがある

患者の展望

・出産後、子どもを育てるか、乳児院などに預けるかを自分自身で決めた、ということが本人の成長につながった
・子育てにおいてたくさんの大人の力を借りることが重要だと気づき、本人の支援希求能力が高まった
・休学後、周囲の支援を得ながら育児と学業を両立させて高卒資格を得られる

想定されるワーストケース

・受診を中止して飛び込み出産や、墜落出産となる
・病院外にて出産/死産にいたり、新生児殺人/死産児遺棄を行う
・退学、学業継続困難
・配偶者/パートナーからの暴力
・出産後の虐待
・出産後、退学、就労困難により、経済的困窮に陥る

患者が抱える傷つき

・親の精神疾患
・両親の離婚歴
・パートナーとの別離
・若年妊娠者に対する社会的スティグマ

社会背景の理解

・幼少時の逆境経験は若年妊娠のリスクファクターである。
・若年妊娠には、性暴力(養育者や教師が加害者である場合も含む)や金銭・搾取が関与する場合もあり念頭に置いておく必要がある。特に中高生が妊娠した場合退学になる可能性も高く、出産後の経済的困難の原因となる。
・若年妊娠は予期せぬ妊娠である場合が多く、養育困難・虐待のリスクが高い。

関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)

逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)

患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。

ACEsの種類

心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用

参考

『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』(PDF)

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支援者の方へ

ソーシャルワークにはさまざまな視点があり、モデルケースは常に多様な知見を取り入れながら改善しています。支援者の皆さまからのご意見を広く受け付けています。ご意見についてはこちらからお送りください。

また、定期的にソーシャルワークやトラウマ・インフォームド・ケアをテーマにしたオンライン勉強会を行っています。参加希望の方はお問い合わせフォームよりご連絡ください。(※現支援者に限ります)

最終更新日:2020/12/19

支援機関

  • 子どもはぐくみ室(京都市各区役所・支所)

    妊娠期〜18 歳までの子どもと子育て家庭に関する総合相談窓口

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  • 社会福祉法人 宏量福祉会 野菊荘 こもれび

    母子生活支援施設野菊荘が実施する、地域のひとり親家庭への相談と支援の窓口

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  • 平安徳義会乳児院

    西京区にある定員20名の乳児院。自然豊かな大原野の地に建ち、子どもたちは四季をたっぷり感じてのびのびと過ごせる

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  • ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
  • ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
  • ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
  • ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています