KYOTO SCOPE

社会的困難女性を支援する人のための
ソーシャルワーク・プラットフォーム

モデルケースと対応

医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。

アルコール依存で暴れる入院患者

患者プロフィール

45歳。

ケース紹介

入院中に暴れる

交通事故により入院。入院中に点滴を抜いて暴れ出す、幻視をしている様子。

飲酒習慣により家族との溝

アルコール依存を疑い、医師から本人および同居の両親にSWが同席の上、説明をした。本人は飲酒量や飲酒習慣を否定したり、「本人はいつでもやめられる」と言ったりする。両親は日頃から本人に飲酒について注意をしていたが、聞き入れなかった経緯もあり、精神科に紹介することになった。

退院後、家族をサポートにつなぐ

退院時、SWが介入し、断酒会、AA関西、京都MACなど、断酒のための自助グループやリハビリテーション施設に色々な選択肢があることを紹介してパンフレットを渡した。本人には断酒の意思が無い様子だった。だが、高齢の両親は娘の飲酒について初めて他人に相談できたとのことで、娘と家庭内でコミュニケーションが取れないこと、家計のこと、自身の老後の生活のことなど悩みを吐露した。精神科にも自助グループにも家族プログラムがあることを紹介したところ参加してみたいとのことだったので、SWも一緒に連絡した。

※家族プログラムも断酒会も家族との面談など、家族のサポートが必要となる。家族が本人の依存症治療に前向きになれることも重要

対応の工夫と視点TICについて

依存症治療には家族など周囲も含めたサポートが重要。このケースでは、当初両親が本人を突き放している言動が見受けられたが、寄り添って聞くことで両親が自身の不安を吐露し、支援につなぐきっかけとなった。本人がアルコール依存を自覚してから、断酒したいと思うまでには時間がかかることもあるが、本人や周囲をサポートの輪につなげておくことが大切。

なお、本人の周囲に家族など支援者がいない場合をはじめ、どのようなケースにおいても、行政保健師や、保健所のPSWなどに報告をしておくとよい。訪問支援をしてくれることがある。報告する旨、本人の承認が必要。

家族が本人とコミュニケーションする際には「CRAFT」を参考にするとよい。また、支援者にとっても有効なコミュニケーション手法である。
CRAFTについて:参考ページ参考書籍

 

患者の展望

・家族の心的負担が軽減したことで、家庭内の緊張が和らぎ、本人が徐々に自分の健康を前向きに据えられるようになり、自助グループ主催のイベントに参加したことをきっかけに精神科の断酒プログラムに参加する
・離脱症状が収まった後も、飲酒欲求や断酒によるストレスがある。自助グループのひとつである京都MACに継続的に通うようになり、自身の抱えている幼少期からの両親との関係性のストレスや、対人関係のストレスなど内面を吐露することで、ストレスマネジメントを身につけていく
・交友関係が広がったり、飲酒以外の趣味を共有したりすることで、生活が安定する

想定されるワーストケース

・家族との対話ができないまま、本人の飲酒習慣が続き、体調が悪化する
・両親が金銭的に困窮する
・家庭内の暴力が激化する

患者が抱える傷つき

・アルコール依存の背景には、家庭内の暴力が存在する可能性がある(DVや虐待など)
・アルコール依存当事者のみならず、家族も傷ついていることが多い
・断酒を勧められること
・アルコールに依存する要因となった困難な社会生活がある

社会背景の理解

・依存症に対する社会的スティグマがある
・安価で高濃度のアルコールが入手できる

関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)

逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)

患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。

ACEsの種類

心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用

参考

『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』(PDF)

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支援者の方へ

ソーシャルワークにはさまざまな視点があり、モデルケースは常に多様な知見を取り入れながら改善しています。支援者の皆さまからのご意見を広く受け付けています。ご意見についてはこちらからお送りください。

また、定期的にソーシャルワークやトラウマ・インフォームド・ケアをテーマにしたオンライン勉強会を行っています。参加希望の方はお問い合わせフォームよりご連絡ください。(※現支援者に限ります)

最終更新日:2020/06/27

支援機関

  • アルコホーリクス・アノニマス(AA)関西セントラルオフィス

    アルコール依存症(診断の有無を問わない)の人のピアサポート団体

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  • 京都市こころの健康増進センター

    こころの健康に関する電話相談、精神障害者の就労・復職準備デイケアなどの支援を行っている

    詳しく見る
  • NPO法人 京都MAC

    依存症(アルコール、薬物、ギャンブル、ゲーム、クレプトマニアなどの依存症、摂食障害)からの回復を支援する施設

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  • ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
  • ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
  • ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
  • ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています