モデルケースと対応

医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。

離婚のためにビザを失った外国人妊婦

患者プロフィール

外国籍の30代の初産。シングルマザー。

ケース紹介

日本人夫との離婚による状況の変化

知人を頼って性風俗店で働いていた。日本人と結婚していたが、店の客と関係を持ち妊娠。夫とは離婚協議を開始した。

言葉は片言の日本語と母国語のみ。母国への帰国も考えたが、「仕送りができないなら帰国するな」と親族に言われ、日本で出産することにした。通院には店のママが同席し、ママの勧めで通院開始と同時に生活保護を申請、受理された。

ビザの再申請と出産後のフォロー

しかし、離婚によりビザの滞在理由の変更が必要となり、再度入国管理局にビザの申請を行うこととなった。本人は、出産後に子どもを保育園に預けて仕事を再開するつもりでいる。通院時には、SWが必ず面接を行い、本人の同意を得て区役所の保健師へ情報提供を行っている。

来院のたびに面談を行い、ビザ取得の進行状況について確認。また、区役所の保健師とも連携し、生活保護の進捗状況や、生活の様子を情報共有した。

対応の工夫と視点TICについて

・外国人患者の対応時には、まずビザの状況の確認
・ビザが通らなければ、生活保護も却下されることがある
・外国人は役所での手続きが困難な場合があることに気を配る

患者の展望

ビザを取得でき、生活保護も受給が決定する。無事に出産し、同じ国の知人らに協力してもらいながら育児を開始。店のママの協力もあり、就労証明も取れ、保育園に入園できる。

想定されるワーストケース

ビザの申請が間に合わず、生活保護が却下される。検診費用を自費で支払いできず、通院が遠のき、行方知れずとなった。

患者が抱える傷つき

・外国籍なだけで受ける不当な扱いによる傷つき
・性風俗店勤務に対する社会的スティグマ
・自国の家族との関係性
・関係を持った客に裏切られている

社会背景の理解

・日本に在住する外国人は年々増加しているものの、外国人に対する福祉や保障は十分ではない

関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)

逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)

患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。

ACEsの種類

心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用

参考

『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』(PDF)

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支援者の方へ

ソーシャルワークにはさまざまな視点があり、モデルケースは常に多様な知見を取り入れながら改善しています。支援者の皆さまからのご意見を広く受け付けています。ご意見についてはこちらからお送りください。

また、定期的にソーシャルワークやトラウマ・インフォームド・ケアをテーマにしたオンライン勉強会を行っています。参加希望の方はお問い合わせフォームよりご連絡ください。(※現支援者に限ります)

最終更新日:2020/09/19

支援機関

  • 公益財団法人京都府国際センター

    日本語学習支援や災害時外国人支援、外国人留学生などの生活・就職相談を実施している

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  • 京都弁護士会

    京都に事務所をもつ弁護士が所属する。さまざまな法律相談を受け、弁護士の紹介をする

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  • 社会福祉法人 宏量福祉会 野菊荘 ひとり親家庭サポートセンター こもれび

    母子生活支援施設野菊荘が実施する、地域のひとり親家庭への相談と支援の窓口

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  • 子どもはぐくみ室(京都市各区役所・支所)

    妊娠期〜18 歳までの子どもと子育て家庭に関する総合相談窓口

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  • ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
  • ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
  • ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
  • ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています