KYOTO SCOPE

社会的困難女性を支援する人のための
ソーシャルワーク・プラットフォーム

モデルケースと対応

医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。

飛び込み出産NICU児への面会頻度が少ない初産母親

患者プロフィール

初産で飛び込み出産の30代。

ケース紹介

飛び込み出産で子どもはNICUへ

妊娠に気づかないまま自宅で陣痛発来、救急要請して来院。産科病棟についてから分娩したが、子どもは重症新生児仮死だった。子どもは人工呼吸器を装着し、NICUに入院した。

夫は20代で、仕事は自転車置場のアルバイトをしている。本人(母親)も自営で喫茶店をしており、育児休業が取れず、働かなければ生活できないため、本人の面会頻度はきわめて少なかった。夜間でも面会は可能であると伝えたところ、少しずつ面会に来るようになった。

面会の機会増と母児の愛着形成を促す

来院時には、母児の愛着形成のために抱っこや授乳の機会をできるだけつくるなど、NICUスタッフが細やかに配慮した。 話を聞くと夫には借金があり、出産後は特に不在がちであるとのことだった。経済面での本人の負担は大きく、また、責任感が強いため、子どもの病態について自分を責める気持ちが強いようだった。両親に反対された結婚であり、当初は親を頼れない、と頑なだったが、話し合ううちに、本人(母親)の両親に連絡して欲しいとのことで、NICUスタッフから連絡をとり、新生児室で赤ちゃんととともに面会が実現した。
以後、両親の助けを得て頻繁に面会に来るようになった。一方、夫とは離縁することになった。

子どもは発達に遅れが出る可能性は大きくあるものの、5ヶ月後にほぼ医療的ケアが不要な形で退院できることになり、母子生活支援施設に退院した。子どものケアについて訪問看護を依頼したほか、区役所の保健師にも頻回に訪問してもらう方針である。

対応の工夫と視点TICについて

・飛び込み分娩をした産婦に対しては、身体的ケアと並行して精神的ケアにも注力することが望ましい
・新生児仮死であっても本人が出産を肯定的に受け入れられるよう、分娩室では産婦本人への声掛けも忘れない。(「ご出産おめでとうございます。赤ちゃんも頑張っています。」など。)
・面談では、本人の生育歴やコミュニケーション特性、トラウマ背景なども踏まえて信頼関係の構築に努めつつ、課題の整理を行う
・NICUスタッフとの連携を密にして、多職種でケアを行う
・退院後の生活を見据え、地域の保健師、訪問看護、母子生活支援施設、保育園や一時入所施設など、地域の支援者と積極的に連携する

患者の展望

母子生活支援施設スタッフや訪問看護のケアを受けつつ、生活基盤が落ち着いて自宅に退所。本人両親による生活や育児の協力、行政からの産後ヘルパー、保育園など、さまざまな支援を受けながら子どもが元気に育つ。

想定されるワーストケース

親としての自覚や愛着が育成されないままに、子どもが自宅に帰り、周囲のサポートもないなか、児童虐待が起こる。

患者が抱える傷つき

・妊娠に気付かないまま出産したことによるトラウマ
・子ども重症新生児仮死になったことの自責、トラウマ
・生活と育児の両立についての葛藤

社会背景の理解

・妊娠、出産にはリスクが伴う(満期で問題なく出産できることが当たり前ではない)ことが社会的に認知されていない
・本人が「妊娠に気づいていなかった」というとき、「なんとなく気づいていたが、妊娠したとはとても言い出せない環境のため、意識的に認知しようとしなかった」ケースもある
・NICU入院という出産早期の母子分離は、母児の愛着形成不全の大きなリスクになる。
・自営業の妊産婦に対する社会的保障は薄い

関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)

逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)

患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。

ACEsの種類

心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用

参考

『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』(PDF)

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支援者の方へ

ソーシャルワークにはさまざまな視点があり、モデルケースは常に多様な知見を取り入れながら改善しています。支援者の皆さまからのご意見を広く受け付けています。ご意見についてはこちらからお送りください。

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最終更新日:2022/11/06

支援機関

  • 子どもはぐくみ室(京都市各区役所・支所)

    妊娠期〜18 歳までの子どもと子育て家庭に関する総合相談窓口

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  • 社会福祉法人福朗 ヴェインテ

    山科区の児童福祉施設、母子生活支援施設

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  • 社会福祉法人 宏量福祉会 母子生活支援施設 野菊荘

    右京区にある、母子生活支援施設。母と子がともに暮らし、それぞれの自立にむけて、さまざまな支援を受けられる児童福祉施設

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  • 児童相談所

    児童虐待など18歳未満の子どもに関わる相談窓口

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  • 平安徳義会乳児院

    西京区にある定員20名の乳児院。自然豊かな大原野の地に建ち、子どもたちは四季をたっぷり感じてのびのびと過ごせる

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  • ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
  • ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
  • ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
  • ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています