モデルケースと対応

医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。

DV支援をきっかけに発覚した発達障害

患者プロフィール

通院歴のない30代の初産婦。

ケース紹介

妊娠中の内科受診でDV告白

妊娠27週に腹痛にて内科を受診。外来看護師に夫からのDVを告白。その後、SWが本人と面談を行った。

妊娠後、遅刻が多くなるなど、仕事と育児の両立がうまくいかず、精神的、時間的な余裕をなくしていた。家事に手が回らないことが夫婦間のいさかいの原因となり、夫が暴言を吐いたり、暴力を振るう。本人は「自分が悪い」と自分を責め、DV相談支援センターへの相談も拒否。

嘔吐することが増え、外来を度々受診。精神的に追い詰められている様子だった。来院のたびにSWとの面談を行うようにしていたが、家事や育児に対するこだわりの強さや融通のなさがうかがえた。本人の両親を呼び、DVについての相談も行ったが、幼少期より人を苛立たせることが多かったと本人を責め、協力は得られなかった。

アスペルガー症候群の疑い。面談からうかがえた特性がきっかけに

出産後にようやくDV相談支援センターへ相談ができた。また同時に、精神科に相談して、臨床心理士による心理テストを実施。アスペルガー症候群の疑いがあることが分かった。

DV相談支援センターへの予約をSWと一緒に行った。面談に行くことができるまで、DV相談支援センターと連携し、双方から連絡した。また、アスペルガー症候群の疑いについて、精神科での継続診療を受けるように勧め、発達障害支援センターも紹介した。

対応の工夫と視点TICについて

・DV被害者が来院した場合には、警察への被害届を提出するかどうかも視野に入れつつ面接環境を整え、落ち着いてゆっくり面接を行う
・本人が現状をどのように認識しているかを確認する過程で、子どもの養育環境には両親の心身が健康であることが大切であることをよく理解してもらう
・会話から発達障害を疑うも、院内に精神科がないなど、連携がしにくい場合、先に発達障害支援センターに相談するのも良い

患者の展望

・発達障害支援機関につながることで、本人、周囲含め、発達障害についての理解を共有することができるようになる。また、DV相談支援センターにつながったことで、万が一の際には逃げることができる場所を確保した。そのことにより気持ちにも余裕ができ、夫との関係が冷静に見えるようになった。

想定されるワーストケース

・DVが悪化し、母子ともに命の危険にさらされる
・DVの悪化により、母の発達障害が悪化する
・家族から発達障害の理解が得られず、適切な支援を受けられない
・発達障害に起因する言動で周囲からの誤解を受け、さらなるトラウマを受ける
・夫婦関係の破綻から離婚、経済的困窮に陥り、母の療養環境や子の養育環境が悪化する

患者が抱える傷つき

・発達特性のために生育歴の中で周囲から受けたトラウマ
・自分の言葉が人に伝わらない実感による深い孤立感
・夫からのDV

社会背景の理解

発達障害の特性とPTSD症状には類似性が見られる。ADHDとPTSDは双方向に関連し、リスクを高め合う。なお、自閉症スペクトラム症患者のトラウマ体験様式は定型発達者と異なる場合がある。発達障害の患者を支援する際にはトラウマを念頭におくことが重要となる。(亀岡智美 MODERN PHYSICIAN Vol.39 12.2019)

関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)

逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)

患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。

ACEsの種類

心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用

参考

『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』(PDF)

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支援者の方へ

ソーシャルワークにはさまざまな視点があり、モデルケースは常に多様な知見を取り入れながら改善しています。支援者の皆さまからのご意見を広く受け付けています。ご意見についてはこちらからお送りください。

また、定期的にソーシャルワークやトラウマ・インフォームド・ケアをテーマにしたオンライン勉強会を行っています。参加希望の方はお問い合わせフォームよりご連絡ください。(※現支援者に限ります)

最終更新日:2020/06/16

支援機関

  • 京都市こころの健康増進センター

    こころの健康に関する電話相談、精神障害者の就労・復職準備デイケアなどの支援を行っている

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  • 京都市発達障害者支援センター かがやき

    発達障がいのある人に対する相談支援、就労支援、発達支援、普及啓発と研修(18才以上も対象)

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  • 京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)

    男女共同参画社会の実現に向けて、さまざまな取り組みを行うとともに、市民活動を支援するために京都市が開設した総合施設。相談事業を行っており、無料相談も受けられる

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  • 京都府家庭支援総合センター(DV相談支援センター)

    京都府全域の配偶者(事実婚含む)からの暴力(DV)の相談支援の窓口

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  • 京都府男女共同参画センター(らら京都)

    京都府男女共同参画推進条例やKYOのあけぼのプランに基づき、男女共同参画社会づくりに向け各種取り組みを推進する拠点施設

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  • ウィメンズカウンセリング京都

    女性が抱える心理的困難に対して、ジェンダーの視点での支援を提供する、民間のカウンセリングルーム

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  • ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
  • ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
  • ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
  • ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています