モデルケースと対応

医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。

不安定な労働・育児環境にある性風俗勤務シングルマザー

患者プロフィール

19歳のシングルマザー。性風俗勤務。産婦人科に頻回受診している。

ケース紹介

不正出血で産婦人科を受診し性感染症と診断。

不安定な労働・育児環境の発覚

性風俗店に勤務しているとのことだった。1歳のこどもがおり、友達に子どもをあずけて仕事をしている。実母は近くに住んでいるが精神疾患があるため育児はできない。本当は性風俗店をやめたいが、自身が中卒であることもあり、生活費を心配している。

性風俗店を辞めるために

まず、京都府家庭支援総合センターに相談し、母子ともに一時保護を受けて、母子生活支援施設に入所できることになった。店から請求されていた借金の請求については、支払い義務があるものは思っていたより少額であることがわかった。弁護士や警察などの介入のうえ、性風俗店を辞めることができた。

その後、本人は就労支援について相談をし、ひとまず生活福祉課で生活保護が申請できるように助言を受けた。

※店舗型の性風俗店とは異なり、派遣型の性風俗店においては従業員の健康を担保するための法律や規制の対象になりにくいことに注意。

対応の工夫と視点TICについて

・本人の意志を尊重し、意思決定を支援した
・繰り返す性感染症から、感染の背景を確認する
・性風俗に関するスティグマに配慮して対応する
・コミュニケーションがとても取りにくい場合、幼少期の逆境的体験(精神疾患のある親から適切な養育をされていない可能性など)を想起する

患者の展望

・行政とつながったことで、保育園や育児ヘルパーなどを利用して保育できることを本人が理解した
・性風俗以外の安定した経済基盤を獲得できる手段もある、と本人が理解して、自分で自分の道を決めてよいことを理解した

想定されるワーストケース

・子どもに対する虐待
・さらなる経済的、社会的な困窮に陥り、安全な居住環境も失う
・受診の中断により、健康状態の著しい悪化

患者が抱える傷つき

・性風俗労働者に対するスティグマ(世間から与えられるもの、また自分自身が与えるもの)
・かつて支援者や医療者から心無い対応を受けて傷ついた経験
・幼少期の逆境的体験に由来する自己肯定感の低下に起因する認知の歪み

社会背景の理解

・脆弱な家族環境 :自立することを求められてきた、彼女を守ってくれる存在が少なく、また弱い状況であった。幼少時の彼女の家族(母、妹)も社会的支援を必要とする存在だが、適切な支援につながっていなかった。家族の生活を支えていた彼女自身の努力を認める人が周りにいなかった(肯定する人の存在が必要)
・教育機会の剥奪:10代から援助交際するなど、十分な教育を受ける機会を得ることなく、就ける仕事が限定されてしまっていた
・情報の不足:さまざまな社会資源があることを知らない
・逆境体験に対するこれまでの経験:自分で何とかしてきた、という気持ちがある
・性風俗労働者には社会的困難を抱えている場合がある

関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)

逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)

患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。

ACEsの種類

心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用

参考

ACE研究、ACEスコアとは何か|クリニックちえのわ(外部サイト)
『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』(PDF)

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支援者の方へ

ソーシャルワークにはさまざまな視点があり、モデルケースは常に多様な知見を取り入れながら改善しています。支援者の皆さまからのご意見を広く受け付けています。ご意見についてはこちらからお送りください。

また、定期的にソーシャルワークやトラウマ・インフォームド・ケアをテーマにしたオンライン勉強会を行っています。参加希望の方はお問い合わせフォームよりご連絡ください。(※現支援者に限ります)

最終更新日:2020/06/27

支援機関

  • 京都府家庭支援総合センター(婦人相談所)

    相談者に寄り添いながら問題解決に向けて情報提供や助言、援助を行う機関。困りごとを抱えた18歳以上の女性が対象

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  • 子どもはぐくみ室(京都市各区役所・支所)

    妊娠期〜18 歳までの子どもと子育て家庭に関する総合相談窓口

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  • 京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)

    男女共同参画社会の実現に向けて、さまざまな取り組みを行うとともに、市民活動を支援するために京都市が開設した総合施設。相談事業を行っており、無料相談も受けられる

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  • 京都府男女共同参画センター(らら京都)

    京都府男女共同参画推進条例やKYOのあけぼのプランに基づき、男女共同参画社会づくりに向け各種取り組みを推進する拠点施設

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  • 社会福祉法人 宏量福祉会 母子支援施設 野菊荘

    右京区にある、母子生活支援施設。母と子がともに暮らし、それぞれの自立にむけて、さまざまな支援を受けられる児童福祉施設

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  • 平安徳義会乳児院

    西京区にある定員20名の乳児院。自然豊かな大原野の地に建ち、子どもたちは四季をたっぷり感じてのびのびと過ごせる

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  • 京都市こころの健康増進センター

    こころの健康に関する電話相談、精神障害者の就労・復職準備デイケアなどの支援を行っている

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  • ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
  • ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
  • ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
  • ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています