社会的困難女性を支援する人のための
ソーシャルワーク・プラットフォーム
コラム
連載:支援の現場から
NPO法人京都マック
【京都マック】厳しさと優しさをもって、依存症から命を守る。アルコール、薬物、ギャンブル、摂食障害、クレプトマニア、買い物依存やゲーム依存などあらゆる依存症の回復支援をサポート
連載:支援の現場から
社会的困難女性(※)が抱える課題に医療現場で気づいたとき、他機関と連携して解決に向かうために。この連載では、支援機関の概要とそこで働く人たちの思いを紹介することで、多職種連携のハードルを下げ、しなやかなつながりを目指します。
※支援の手が届きづらい社会的に孤立している女性たちのこと(詳しくはこちら)
今回お話をうかがった人楳原節子(うめはら・せつこ)さん
ニーズに対応するうちに広がった支援対象
――どのような方が利用しますか?
京都マックはアルコールと薬物依存症の方を対象とした支援からスタートしました。しかし、時代とともに多様な依存症の方が来られるようになってきて、現在はギャンブル、摂食障害、クレプトマニア(窃盗症)、買い物依存やゲーム依存など、実にさまざまな症状の方がいらっしゃいます。また、京都マックではまだ受け入れが進んでいませんが、他都市で運営されているマックの拠点では性依存との方たちの支援も少しずつ増えてきています。でも実は、私たちが幅広い層の方たちに呼びかけたわけではなく、「どこに相談に行けばいいのかわからない」と困っている方たちが京都マックに相談に来られるなど、何らかのかたちでつながっていくなかで、結果的に間口が広がっていきました。
――どのようなフローで支援が行われるのでしょうか?
ご本人、ご家族からは電話かメールでご連絡をいただくことが多いです。関連機関から紹介される場合も少なくなく、おおまかな傾向としては、アルコールなら医療機関、薬物であれば弁護士や保護観察官、買い物依存であればご家族や友人関係……というように、ケースによって異なります。根本的な原因は依存症なのですが、そのことによって引き起こされる問題はさまざまですので、当事者が最初に相談に行く先が病院や弁護士などと多様になるんです。
医療機関からご連絡をいただく場合は、当事者の情報を共有していただき、支援方法を一緒に考えていきます。医療機関から当事者に京都マックを紹介していただいても、実際にすぐに京都マックに来られる方は少ないんですね。依存症の治療を拒まれることも多いので、まずはご家族に来ていただくなど、ご本人が京都マックに来られるチャンスをうかがいながら関係各所とやりとりしていきます。当事者から直接ご連絡をいただけた場合は、電話だけでは状況を把握しづらいので、なるべく早い段階で相談に来ていただけるようにしています。
当事者の家族や身近な方のサポートも
――医療機関から紹介される際に知っておきたい情報を教えてください
当事者の同意が得られるのであれば、身体的なことも精神的なことも含めたすべての情報と、特にその方に配慮すべきポイントでしょうか。事前情報がなければ、当事者が相談に行く先々で何度も同じ話をしていただかないといけなくなり、苦痛になってしまうんです。当事者の心のケアのためにも、情報は多ければ多いほどありがたいです。
ここへ来る人たちはいろんな側面を持っておられます。例えば、お医者さんに「お酒はどうですか」と聞かれて「飲んでいません」と言い切っていたとしても、京都マックに来るとずいぶんお酒の匂いがしているようなこともあります。そういう側面も共有できれば、支援の方針も立てやすくなりますよね。
――相談後はどのような支援を行うのでしょうか?
通所か入寮か、あるいは通所ではなくても定期的に連絡を取っていくなどの判断をしていきます。単身の方で生活面での支援が必要なケース、医療的なケアが必要な場合などその人によって状況もさまざまですから、関係機関と連携しながら支援方法を考えていきます。
ご本人に治療の意思がなくても、ご家族を家族会とおつなぎするケースもあります。当事者の方が依存症と分かったとき、あるいはその疑いが出てきたときに一番動揺し、困るのはご家族など身近な方なんです。当事者が一番大変なはずなのですが、依存症の方が「自分が困っている」と自認することはなかなか難しいんですね。
また、当事者も身近な人も、依存症であることが自己責任や恥だと捉える方も少なくないんです。そうなると、家のなかで問題を抱え込んでしまって初動が遅れてしまいます。迅速に支援への道すじをつけることが重要です。
――どのような回復プログラムがありますか?
回復支援のために行っている主な手法はグループセラピー(ミーティング)です。4〜10人の当事者のグループをつくり、1つのテーマに沿って参加者が自分の体験を振り返りながら過去の犯罪や幼少期の経験など、あらゆることを話していきます。自分が話したり、人の体験談を聞いたりするなかで、参加者が自身と向き合い、抱えている課題や過去のトラウマなどいろんなことに気づいていきます。ファシリテーションはスタッフが行います。実は京都マックのスタッフの半数は、なんらかの依存症の回復者なんですね。ですから、まずは自身の体験を語っていきます。
このグループセラピーも手がけるアディクション・デイケアセンター部門は、リハビリセンターとして、生活支援、就労支援、家族支援などトータルサポートを行っています。体の状態が良くない場合は医療機関とつなげたり、トラウマを抱えておられる場合はカウンセリングを行なったりしていきます。また入所宿泊型「にこにこハウス」(主に男性)と入所女性ハウス「DML」(主に女性)では共同生活を送りながら、毎日ミーティングなどを行い社会復帰を目指します。一定の期間を経て退所し、就職して生活基盤を築いていったり、依存症の根本的な原因となっている過去のトラウマと向き合うためのカウンセリングを受けたり、次のステップへ進むケースが多いです。
同じ経験をしてきた同士として
――楳原さんが日々の支援のなかでこだわっていることは何ですか?
私も依存から回復した一人ですので、経験があるからこそ当事者に共感できる部分があると思うんです。依存していた時期のこともそうですし、回復のプロセスも共有することができます。また、私も自分の体験を話すことで改めて自身と向き合うことができ、同志としてともにがんばることができます。
私の場合はキッチンドランカーからアルコール依存症になりました。子育てをしながら治療をしていたので、子どもにどう事実を伝えるのか悩みましたし、グループセラピーに出かけるときに子どもを預ける先がなくて困ったこともありました。当時は女性の依存症の支援体制が整っておらず、しんどいことが多かったんですね。その渦中にいて、壁にぶつかったからこそ知る生活での課題や解決策を共有することがありますし、特に困っている女性の力になりたいという思いはあります。
依存症の方たちを支えるための支援機関はたくさんありますが、支援者と当事者との間で考えや認識にズレが生じていることが多いと感じています。その場合は、当事者としての経験からそのズレを察知して、支援機関に的確に伝えることも意識しています。
例えば、アルコール依存症の方ががんばってお酒をやめて、肝臓の数値がよくなり元気になったとします。たいていの支援者は、そのことを褒めます。しかし、この時期が一番危険です。普通の状態の人ならば、「せっかく良くなったんだから健康な状態を維持しよう」と努めると思いますが、依存症の場合は「良くなったんだからまたお酒を飲んでもいいや」という心理が働くんです。ギャンブル依存症の人なら、借金を返し終えたときが危険です。家族と協力してがんばって借金を返し終わったタイミングで、またギャンブルに走ってしまい、再び借金ができて家族との関係が悪化して……という悪循環に陥ってしまことも少なくありません。しかし、本人の奥底にある心理を的確に捉えることは難しく、また同じ道を歩んでしまうことも珍しくありません。私には経験者としても実感のあることですから、こういった注意ポイントは関係者に共有するようにはしています。
医療機関と連携した支援
また、依存症は医療機関などにおいても嫌えんされると感じることがあります。というのも、依存症は専門性の高い病気だと思われていて、専門外だから診察ができないとか、関わりづらいと思われることがあるようなんです。しかし、体を壊すまでお酒を飲むなんて、どう考えても普通ではありませんよね。そういう事実に対してもっとシンプルに捉えて、何かおかしい、支援が必要なのかもしれないと思った時点ですぐに私たちのような支援機関とつなげていただけたら、より多くの依存症の方をサポートできると思います。
命を守るためにときには厳しい言葉も
――印象に残っているケースを教えてください
あらゆる関係機関が連携して、薬物依存の後期高齢者の女性をサポートした事例があります。Aさんは、刑務所を出てからご家族のもとに戻られたものの、そりがあわずにホームレスになりました。その頃に保護されて、ホームレスの支援施設におられたときに薬物使用の疑いがあったことから、京都マックとつながりました。そこから、訪問看護師、ヘルパー、ケースワーカーなどあらゆる側面から生活のサポートを行いつつ、万が一薬物使用の疑いがあった場合には、依存症の治療を優先して行えるようネットワークづくりを徹底していきました。
社会的には薬物依存は若い方に多いイメージがあるかもしれませんが、そんなことはありません。また、依存症は治療が必要なものであるという実態や当事者の背景を知らないと、「薬物依存者=犯罪者」という偏見が生じやすいものなんです。そういった依存症の傾向も関係者と共有し、Aさんと密に関わりながら、支援者全員がAさんの依存症からの脱却という目的を見つめて依存症と向き合うことができたケースでした。
――楳原さんにとって、「寄り添う」とは?
支援対象者のことを真剣に考え、ときには厳しいことも言いながら伴走することでしょうか。私は当事者でしたから、回復のプロセスにおいて厳しいことを言われたときに、アドバイスをくれた人たちのことを敵のように感じたこともありました。けれど、その言葉は、私の命を大事にしてくれていたからこそかけてくれた言葉なのだと、あとで気がつきました。やさしくなぐさめるだけではなく、ときには厳しさも持って寄り添っていくことに尽きると思います。
お話をうかがって
依存症の当事者の周りにいる人たちは、はじめはそれを症状として見抜くことができず、借金や犯罪という目の前で起きた事実に対して戸惑い、どのように対処すべきか悩み苦しむ……ということは多々あるのではないでしょうか。また、心身ともにつらい状況に直面しているはずの当事者も多く、どこに相談に行けばいいのかわからず立ち往生してしまうケースが非常に多いようです。楳原さんの話にあったように、家族の問題や個人の課題として抱え込まずに、依存症の疑いがあればまずは京都マックに相談してみてください。たとえすぐに解決はしなくても、きっと、ともに糸口を見つけてくれるはずです。
執 筆:山森彩(ユブネ)
編 集:高木大吾(デザインスタジオパステル/KYOTO SCOPE)
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このプロジェクトは、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の一組織である社会技術研究開発センター(RISTEX)の「安全な暮らしをつくる新しい公/私空間の構築」研究開発領域の委託を受けて、病院の産婦人科などを訪れる特定妊婦やその予備軍に対する、病院でのソーシャルワークを活性化させるための研究開発事業の一貫として、京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻健康情報学分野が実施を開始し、一般社団法人SRHR Japanが運営しています。
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