KYOTO SCOPE

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コラム

連載:レポート:イベント/勉強会

「おてらでトーク 若年女性の孤立孤独と社会的処方」開催レポート 後編

2023.03.30

連載:レポート:イベント/勉強会

開催したイベントや勉強会のレポートです。

2023年1月28日、「KYOTO SCOPE」では初となる直接対面での“オフライン”イベントを開催しました。「若年女性の孤立孤独と社会的処方」をテーマに、京都を代表する寺院の一つ、建仁寺の禅居庵にて行いました。イベント後編は、支援の現場で活動するゲストの方々とともに、架空のケースをもとに孤立女性である黒木七海さん(仮称)の支援について考えました。以下に、ケース事例を紹介します。

前編はこちらからご覧ください。

パネルトーク「孤立女性の支援を考える」&グループディスカッション

3つの視点からみた、ある孤立女性に必要な支援のかたちとは

まずは、3名のゲストの方々に、黒木七海さんをどうアセスメントされるのか、それぞれの視点からご意見をお聞きしました。

発達障がいの可能性も視野に入れつつ、アセスメントを続ける

池田 最初にお話いただく義村さや香さんは、数々の病院にて精神科医としての臨床経験を持ち、現在は京都大学大学院医学研究科特定講師。主に自閉スペクトラム症(ASD)の研究を手がけておられます。

義村 ポイントは2つあります。1つ目は、「双極性障害II型」の可能性です。自死された七海さんの祖母はうつ病とのことでしたが、実は「双極性障害II型」の場合うつ・そう状態を繰り返し、本人が調子がいいと思われている状態であっても、それが実は軽躁状態であるという傾向があります。そして、自死の可能性もうつ病の場合よりも高くなりますまた、遺伝性が高いことも特徴です。

2つ目に気になったことは、発達の傾向です。特に女性でADHDの症状がある程度の年齢まで続いていること、また、レゴが得意なことなどから、ASDの特徴がうかがえます。また、発達障がいをお持ちの場合、社会への適応が早い年齢から難しい場合が多いんですね。特に自閉の特性がある子どもの場合、対人関係がうまくいかず不登校になるケースも多いため、七海さんがひきこもりであるという情報から以上のように推察しました。

池田 私が医療現場で七海さんにお会いしたと仮定して、この段階で精神科をご紹介した方がいいのでしょうか?

義村 ケースバイケースですが、発達症の傾向がはっきりと出ていない場合は、精神科でも見逃される場合が多いんです。この時点で何もないと診断されてしまって、ご本人が「自分には(精神科の)医療は必要ないんだ」と思われてしまうことは危険です。ですから、この段階では、どのように七海さんに伴走していくのかを考えながらアセメントを続けることが必要だと思います。

個人として付き合いながら、ストレングスを伸ばす

池田 続きまして、ご自身も若くしてシングルマザーになられ、人生の酸いも甘いも経験されたあと、大阪にて社会福祉士として幅広く活動されている辻由起子さんです。行政のスーパーバイザー、内閣官房こども政策参与なども務めておられ、政策提言なども積極的に行なっておられます。

 実は今、こうしたケースを山ほど抱えています。社会福祉の視点では、できないことを伸ばすのではなく、その人のストレングス(強み)をより引き上げていくことを目指します。その観点からみると、七海さんはとても優秀です。ひきこもりでありながら高校を卒業していること、そして、田中さんに会うために外出できていることがポイントです。私ならまずは、“推し活”の話題からアプローチして「話を聞いてくれそう」と思ってもらえる関係を築いていきます。本人が考えていることに「話す相手がいなくてさみしい」とありますよね。人と会話したいという心に秘めた希望があると思うので、そこに働きかけます。支援組織としてではなく、人対人として関わっていきます。

また、私たちは「ご家族とはバディを組もう」という姿勢で伴走したいと思っています。特に七海さんの場合は、親子3代で抱えている課題がありますので、母親との関係づくりも行なっていきたいですね。また、地域で「仲良しの他人を増やす」こともキーワードです。七海さんのケースの場合、例えば体調不良を起こして車で病院に行かなくてはいけない状況になったときに、公的なサポートを使うことは難しいと思います。でも、近所のおじさん、おばさんなら車を出してくれるかもしれない。そのように、実家のように敷居の低い場所をたくさんつくっておきたいですね。

池田 近藤さんの地域資源や社会的処方のお話と通じるところがありました。ありがとうございます。

“居場所”を起点にした、ゆるやかな関係づくり

池田 続きまして、「京都市ユースサービス協会」の竹田明子さん、お願いいたします。中学生から30歳までの若者が活動拠点や居場所として活用できる「青少年活動センター」の運営を行う団体におられます。

竹田 私が七海さんに出会うとしたら、支援者からのご紹介になると思います。青少年活動センターはさまざまな活動を行なっていますが、若い人が目的もなくても日常的に行ける・居ることもできるという「場」です。

そこでは、出会いも関係性もない状態からなにかを相談されるということは少ないので、七海さんと私の関係がまだ構築されていない状況で、ここまで丁寧な情報が伝わってくることには、立場上、違和感がありました。というのも、私たちの現場では、その場所での出会いから始まって、状況に応じて徐々に関係性を育んでいくので、最初からそこまで細かい情報を伝えてもらうことがないんです。もちろん、アセスメントそのものに異論があるという意味ではありません。事前情報がなくても出会える場があるということをお伝えしたいのと、今回の場合は情報があるので、支援者からの紹介が想定されます。

そうした前提で、七海さんとの会話のなかで関係性を深める切り口を見つけつつ、家に帰りたくないということであれば、青少年活動センターに無料でいられることをお伝えしたいと思います。また、もしご本人がいやでなければ、LINE交換をしてコミュニケーションをとっていく、というところでしょうか。

池田 「京都市ユースサービス協会」さんは活動の幅が広いので、いろいろな出会い方が推測されるとのお話も以前にお聞きしました。

竹田 京都市内に7箇所の青少年活動センターがあります。大学生のサークル利用が多くなっていますが、21時まで開放しているフリースペースもあります。若者の支援が目的なので、学校に行く時間にそこにいてももちろん指導はしません。また、「京都市ユースサービス協会」としては、学習支援事業や就労支援、相談窓口など、さまざまな経路がありますので、家庭環境が難しい中高生たちと出会って一緒に過ごす関わりしろはさまざまありますね。

池田 ありがとうございます。近藤さん、これまでのお話を聞いてどのように思われますか?

近藤 「いいところを伸ばす」という活動に共感しました。私たち医師は病気を治すことが目的なので、つい患者さんの課題を探してしまいがちなのですが、医療現場においても、「健康を能力としてみなして、伸ばしていく」という発想に、世界的に変わりつつあります。マイナスからのスタートではなくて、その人が持っている能力をさらにプラス方向へと伸ばしていくという視点を持って、人々をハッピーにしようという思いが共通しているなと感じました。

参加者それぞれの立場で考える支援のあり方

パネルディスカッションのあとは、9つの班に分かれてグループディスカッションを行い、架空の黒木七海さんにどのように支援が必要なのかを議論しました。

ソーシャルワーカー、助産師、保育士、地域の支援現場で活動する人、そして医学部の学生などさまざまな世代、立場の人たちがともに議論しました。そのなかで出たトピックをピックアップしてお伝えします。

●不登校やひきこもり。社会とつながりやすくはなった?
・(同世代で)不登校やひきこもりの人と出会うことがない。友だちには話しづらく、外部の相談窓口になら気軽に話せるのかも?
・不登校といってもいろいろなケースがあって、不登校だからといって生徒間での差別みたなものは少なくなってきている。Zoomの授業も増えて社会とつながるハードルが少し下がっているのかも

●“19歳”だと、社会福祉制度が使いづらい
・七海さんがどこかに逃げ込みたいと思っても、児童相談所への相談も難しく、シェルターでの支援を行うにしても親の同意が必要
・子どもが産まれていないので(流産したので)、子育て支援も使えない
・親と世帯分離すれば使える支援はあるが、行政窓口では立場上、提案しづらい

●妊娠・中絶の選択肢を広げたい
・意図しない妊娠してしまった女性に対して、出産を前提に話を進めるケースが多い。中絶という選択肢があることも伝えるべきでは

●田中との関係をどう捉えるのかが鍵
・田中との性行為を性暴力と捉え「京都性暴力被害者ワンストップ相談支援センター 京都SARA」を紹介していることへの違和感。唯一つながっている田中を加害者にして、七海さんに「自分は被害者である」という印象を与えることで、七海さんの社会とのつながりを切断してしまうかもしれない

●“聞かない”支援と、“聞き耳を立てる”支援
・「図書館」で行なわれる「聞かない支援」。自由に出入りできて、誰がそこにいても違和感がない。「本」を介したコミュニケーションで課題を発見することもある
・和歌山市には、365日年中無休で、午前9時から午後9時まで開館している図書館がある(和歌山市民図書館)。「図書館」という場所であること、無休であることから、不登校や居場所のない人がいやすい

熱気あふれるディスカッションでは、さまざまな着眼点で七海さんの状況を分析し、アプローチを試行錯誤し、あらゆる可能性を鑑みて支援方法を模索しました。当事者が抱える課題だけではなく、支援側の視点からの課題が見えてくると同時に、社会状況や政策、制度による影響も議論されました。それらの課題を解決するための施策を現場視点で、ともに考えるためにも、支援者がつながりを深め、強めていくことが求められているのではないでしょうか。

ディスカッションのあとは、和やかな “お茶会”が開かれ、禅居庵の庭園を眺めながら、点てたばかりのお抹茶と美しい和菓子をいただきました。

お茶をいただき、それぞれがゆるやかに話をしながら、あたたかな雰囲気のなか、無事に「おてらでトーク」は終了しました。

登壇いただいた皆さま、京都をはじめ全国各地からお越しいただいた皆さま、ほんとうにありがとうございました。これからも、「KYOTO SCOPE」では、オンライン・オフラインを問わず勉強会を継続的に開催し、医療従事者や支援の現場の方々とともに考え議論し、アクションする機会を積極的につくっていきたいと思います。

 

執 筆:山森彩(ユブネ)
撮 影:坂下丈太郎
編 集:高木大吾(デザインスタジオパステル/KYOTO SCOPE)