社会的困難女性を支援する人のための
ソーシャルワーク・プラットフォーム
モデルケースと対応
医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。
救急でDVを打ち明けられない女性
患者プロフィール
3人の子どもがいる26歳。パート勤務。
ケース紹介
DV被害を告白できない
階段から落ちたと救急外来を受診。夫が同伴。骨折と頭を打った可能性もあり、入院を勧めるが、「大丈夫だから」と帰宅したがる。説得して一晩、入院する。
無理に聞き出すよりも、丁寧な情報提供を
夫が帰宅後、「これまで一度でも、夫から殴られたり蹴られたりしたことはありますか?」と確認してみた。本人は答えにくそうだったので、危険な場合は110番した方がいいことやDVの相談先があり、一時保護もしてもらえるという情報も伝えた。整形外科に再診予定となったために、同時刻にSW面談の予定とした。
社会資源とつなげる方策を
本人帰宅後、院内の虐待対策委員会で話し合い、面前DVとして児童相談所に連絡した。
対応の工夫と視点TICについて
・同伴者がパートナー単独での対面診察に拒否的な様子の場合はDVの可能性を考慮する
・夫(加害者)が一緒にいる場合、特に被害を打ち明けられないので、一人でいるときに質問する
・質問は率直かつ、本人が警戒しないように工夫する
・DV被害者は、すぐにDVであると認めて逃げたり相談したりできないことがある
・危険な場合の対処法や、逃げられるところがあることについて情報提供する
患者の展望
来院の度に、SWと面談し、生活のことや困りごとなどを傾聴して信頼関係を構築するうち、本人に京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)でのカウンセリングの希望が生じた。夫には「子育ての相談をしにいく」と伝えて、カウンセリングを受けるようになった。
また、児童相談所との関わりを通じて、子どもにとって適切な環境について考えるようになった。そこで自分が受けているのはDVであると自覚し、逃げることを考えるようになった。準備を始めていたタイミングで夫から激しい暴力を受け、110番通報。警察の担当者が介入し、DV相談支援センター(京都府家庭支援総合センター)に子どもと一緒に行き、一時保護を受ける。
想定されるワーストケース
・夫が病院に不信感を抱き、引っ越す
・暴力が継続し、患者の心身の健康状態の悪化、死亡
・子どもへの虐待の深刻化
患者が抱える傷つき
・夫からのDV被害は自分に原因があると思っている
・社会のジェンダー規範に飲まれていることが多い
・DVに対する社会的スティグマ、自己へのスティグマ
社会背景の理解
被害者がなかなか逃げられないことがある。しかし、逃げない被害者の問題ではない。DVと認めたくない気持ちが働きやすく、助けを求めにくいことがあることを理解する必要がある。
被害者の気持ちの整理には時間を要することがあり、相談機関を紹介することも有効である。
関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)
逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)
患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。
ACEsの種類
心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用
参考
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支援者の方へ
ソーシャルワークにはさまざまな視点があり、モデルケースは常に多様な知見を取り入れながら改善しています。支援者の皆さまからのご意見を広く受け付けています。ご意見についてはこちらからお送りください。
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支援機関
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ウィメンズカウンセリング京都
女性が抱える心理的困難に対して、ジェンダーの視点での支援を提供する、民間のカウンセリングルーム
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京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)
男女共同参画社会の実現に向けて、さまざまな取り組みを行うとともに、市民活動を支援するために京都市が開設した総合施設。相談事業を行っており、無料相談も受けられる
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京都府家庭支援総合センター(DV相談支援センター)
京都府全域の配偶者(事実婚含む)からの暴力(DV)の相談支援の窓口
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京都府男女共同参画センター(らら京都)
京都府男女共同参画推進条例やKYOのあけぼのプランに基づき、男女共同参画社会づくりに向け各種取り組みを推進する拠点施設
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子どもはぐくみ室(京都市各区役所・支所)
妊娠期〜18 歳までの子どもと子育て家庭に関する総合相談窓口
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京都府家庭支援総合センター(女性相談支援センター)
相談者に寄り添いながら問題解決に向けて情報提供や助言、援助を行う機関。困りごとを抱えた18歳以上の女性が対象
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平安徳義会乳児院
西京区にある定員20名の乳児院。自然豊かな大原野の地に建ち、子どもたちは四季をたっぷり感じてのびのびと過ごせる
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社会福祉法人 宏量福祉会 母子生活支援施設 野菊荘
右京区にある、母子生活支援施設。母と子がともに暮らし、それぞれの自立にむけて、さまざまな支援を受けられる児童福祉施設
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- ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
- ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
- ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
- ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています