モデルケースと対応

医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。

住所不定だった女性出所者の救急搬送

患者プロフィール

服役歴のある35歳。

ケース紹介

刑務所出所後、住所不定

発熱と意識障害にて救急搬送。刑務所出所後、行き先がなく、手持ちのお金でインターネットカフェなどを転々としていたとのこと。発熱の原因はインフルエンザとそれに伴う脱水だったが、退院後は行く先がないとのこと。無保険であったために、生活保護申請手続を開始した。

薬物使用歴の判明と保護施設の手配

意識障害の鑑別として薬物使用歴を聞いたところ、覚せい剤の使用歴について話されたが、今はやっていないとのことだった。本人に確認すると、出所後6ヶ月以内で保護カード(刑務所が発行する更生保護施設を利用できるカード)を所持していた。退院後の宿泊先としては、保護観察所を介して更生保護施設(更生緊急保護制度)があり得ると情報提供した。また更生保護施設に入所できない場合は、区役所にて相談をし、ホームレス施策での緊急一時宿泊所が考えられる。

薬物依存症としても対応

薬物に関して本人は「薬をやる気はない、もう大丈夫」と話していたが、依存症には支え合いも大切であることを伝え、京都DARCやMACを紹介した。

本人の状況を再確認

他府県にある女子刑務所を出て京都まで来ていた理由を確認すると、昔の知人を頼ってきたが連絡が取れないとのことだった。生活面や心理面で、人とのつながりがほしいとのことで、MACに連絡したところ病院まで会いに来てくれることになった。

対応の工夫と視点TICについて

・無保険であれば、急いで生活保護申請もしくは国民健康保険加入手続を開始する
・出所者は、犯罪をきたす前に何らかの被害者であることが多いことに留意して対応する
・薬物依存症の治療に関しては、本人の意思を越えない範囲で、継続支援先とつなぐ

患者の展望

更生保護施設には女性専用施設もあり、薬物プログラムや専門職員が配置されていることもあるため、入所できれば、薬物依存症の治療を開始できる場合がある。しかし仮釈放の方で満員であり、この患者さんは入所できなかった。緊急宿泊所に行ってみたものの環境が悪かったとのことで、最終的にはMACで依存症のリハビリプログラムにのり、その後生活保護を受給して生活再建をはかることになった。

想定されるワーストケース

住む場所がないまま、ネットカフェなどを渡り歩いているうちに、性風俗などに搾取され、身体の健康がさらに失われる。

生活保護申請で住むところは確保できても、孤立して生活再建がなかなかできなくなる。また、孤独感から依存症が悪化し、心身の健康がさらに損なわれる。

患者が抱える傷つき

・薬物依存せざるを得ない状況に至った過程
・罪を犯さざるを得ない状況に至った過程
・頼れる身内や友人がいない(出所して帰る家がなかった)
・出所者であるという社会的スティグマと自己へのスティグマ
・薬物依存症者であるという社会的スティグマ

社会背景の理解

・概して、女性受刑者は性犯罪被害者の割合が高いと言われている。また、犯罪者の多くは被害者でもある
・出所後6ヶ月以内であれば 、緊急更生保護制度を利用することが可能である。一概にホームレス施策の利用を勧める必要はない。ただし、本人が観察所への相談を拒む場合もあるため、選択肢としては区役所への相談も提示できると良い
・刑務所内で行われる医療には限界がある。また、満期で刑務所を出所する者に対して継続した支援を行うのは難しい(※刑務所は国家権力であるため、出所後に関わることはできない)

・薬物使用について、基本的には病院からの通告義務はない。参考リンクhttps://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA03358_02

 

関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)

逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)

患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。

ACEsの種類

心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用

参考

ACE研究、ACEスコアとは何か|クリニックちえのわ(外部サイト)
『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』(PDF)

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支援者の方へ

ソーシャルワークにはさまざまな視点があり、モデルケースは常に多様な知見を取り入れながら改善しています。支援者の皆さまからのご意見を広く受け付けています。ご意見についてはこちらからお送りください。

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最終更新日:2020/09/16

支援機関

  • 特定非営利活動法人 京都DARC

    民間の薬物依存症回復支援施設

    詳しく見る
  • NPO法人 京都MAC

    依存症(アルコール、薬物、ギャンブル、ゲーム、クレプトマニアなどの依存症、摂食障害)からの回復を支援する施設

    詳しく見る
  • ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
  • ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
  • ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
  • ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています