モデルケースと対応

医療現場で患者のトラウマに配慮したソーシャルワークを実現するために。ここでは社会的困難女性が来院を仮定して、さまざまな仮想ケースとその対応モデルを紹介しています。

性風俗店での望まない妊娠で中絶希望のシングルマザー

患者プロフィール

5歳の子どもがいるシングルマザー。デリバリーヘルス勤務。

ケース紹介

人工妊娠中絶希望で来院したデリバリーヘルス勤務の女性。「ホンバンなし」の契約にもかかわらず、客に強要されたとのこと。

警察ではなく、支援機関を本人が選択

警察に届けることを勧めたところ、本人は拒否。京都性暴力被害者ワンストップ相談支援センター 京都SARAを紹介すると、「相談してもいい」とのことだったので、本人に代わって電話した。

支援機関に相談し、勤務先への費用請求へ

京都SARAのアドバイスで、妊娠が分かってから相談された場合、人工妊娠中絶手術の費用は公費負担の対象ではないと説明された。また、勤務先に費用を請求できる場合もあるという情報提供があり、法律相談を受けられるとのことだった。

本人は、勤務先に費用を出してもらうと意思を示したので、勤務先に話をした上で、また相談してほしいと伝えた。

対応の工夫と視点TICについて

・人工妊娠中絶希望の背景について、率直に質問した
・同意のない性行為は性暴力であり、被害者は悪くないことを伝えた
・警察や京都SARAへの相談については、本人の意志を尊重した
・性暴力や望まない妊娠など、本人はトラウマ急性期にある。今日の面談後も継続フォローできるように工夫した

患者の展望

後日、店が費用を負担し手術ができたと、本人が報告に来る。性風俗の仕事を継続する意思があるとのこと。

性被害や性感染症のリスクが大きいことを説明し、一度今後のことを専門機関に相談してみてはどうかと男女共同参画センターや保健福祉センターなどを紹介する。

想定されるワーストケース

・パターンA:人工妊娠中絶して未払いのままで消息不明となり、適切な健康ケアを受けられなくなる
・パターンB:サラ金などに中絶費用を借金し、子どもとともにさらに生活が困窮する

患者が抱える傷つき

・性風俗店で働いているという社会的スティグマを受けている
・客から受けた、もしくは受けてきた性暴力によるトラウマがある(避妊や性感染症予防の知識を上から目線で伝えるとかえって本人を傷つける場合がある)
・子どもを妊娠し、中絶を決意することには大きなトラウマを伴う

社会背景の理解

・シングルマザーの生活を支える制度は十分でなく、日本のシングルマザーの50%は貧困である
・店舗型の性風俗店とは異なり、派遣型の性風俗店においては従業員の健康を担保するための法律や規制の対象になりにくい

関連が推測されるACEs(逆境的小児期体験)

逆境的小児期体験(ACEs:Adverse childhood experiences)は、成人後の身体的、精神的問題などとつながっていると指摘されています。ACE研究と呼ばれる1995年から米国で行われた大規模疫学調査において、子どものころの逆境的体験の数と成人後の予後を調べると、ACEsによって健康リスクが高まり、20年以上早く死亡することが明らかになりました。(参考:『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』)

患者の背景には直接的なトラウマ以外にも、このような要因が隠れている場合もあることを知っておくとよいでしょう。

ACEsの種類

心理的虐待、身体的虐待、性的虐待、身体的ネグレクト、情緒的ネグレクト、家族の収監、ひとり親/両親の不在、DVの目撃、家族の精神疾患、家族の薬物乱用

参考

『視点を変えよう! 困った人は、困っている人』(PDF)

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支援者の方へ

ソーシャルワークにはさまざまな視点があり、モデルケースは常に多様な知見を取り入れながら改善しています。支援者の皆さまからのご意見を広く受け付けています。ご意見についてはこちらからお送りください。

また、定期的にソーシャルワークやトラウマ・インフォームド・ケアをテーマにしたオンライン勉強会を行っています。参加希望の方はお問い合わせフォームよりご連絡ください。(※現支援者に限ります)

最終更新日:2023/09/24

支援機関

  • 京都性暴力被害者ワンストップ相談支援センター京都SARA

    京都府設置の性暴力被害の専門相談窓口。病院や警察、弁護士相談などの紹介と同行支援、医療費やカウンセリングの公費負担がある

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  • 子どもはぐくみ室(京都市各区役所・支所)

    妊娠期〜18 歳までの子どもと子育て家庭に関する総合相談窓口

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  • 京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)

    男女共同参画社会の実現に向けて、さまざまな取り組みを行うとともに、市民活動を支援するために京都市が開設した総合施設。相談事業を行っており、無料相談も受けられる

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  • 京都府男女共同参画センター(らら京都)

    京都府男女共同参画推進条例やKYOのあけぼのプランに基づき、男女共同参画社会づくりに向け各種取り組みを推進する拠点施設

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  • ウィメンズカウンセリング京都

    女性が抱える心理的困難に対して、ジェンダーの視点での支援を提供する、民間のカウンセリングルーム

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  • 京都市こころの健康増進センター

    こころの健康に関する電話相談、精神障害者の就労・復職準備デイケアなどの支援を行っている

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  • 京都府家庭支援総合センター(婦人相談所)

    相談者に寄り添いながら問題解決に向けて情報提供や助言、援助を行う機関。困りごとを抱えた18歳以上の女性が対象

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  • 社会福祉法人 宏量福祉会 野菊荘 ひとり親家庭サポートセンター こもれび

    母子生活支援施設野菊荘が実施する、地域のひとり親家庭への相談と支援の窓口

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  • 社会福祉法人 宏量福祉会 母子支援施設 野菊荘

    右京区にある、母子生活支援施設。母と子がともに暮らし、それぞれの自立にむけて、さまざまな支援を受けられる児童福祉施設

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  • ※このケースは女性支援、女性医療に携わる、医師、看護師、保健師、リハビリ職、ソーシャルワーカー、カウンセラーなどによる研究チームによって作成された架空のケースです
  • ※それぞれの掲載ケースは、対応の学習を目的とした一例であり、さまざまな条件により最適解は異なります
  • ※連携した社会資源がこのとおりの対応ができるとはかぎりません
  • ※各ケースのイメージビジュアルは、それぞれのカテゴリーを表しており、支援者の二次トラウマに配慮して設計しています